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「悲愴」を聴く33・・・マタチッチ
「ロヴロ・フォン・マタチッチ(1899〜1985)」

クロアチア生まれ、ウィーン少年合唱団に入団。ウィーン国立アカデミーで学ぶ。
1933年ザグレブ歌劇場第1指揮者、1936年ベオグラード歌劇場総監督。
戦後ナチの協力者として糾弾され、銃殺寸前まで行ったそうです。1954年に指揮者として復帰しましたが、マタチッチのヨーロッパでの活躍の場は主にオペラハウスに限られました。コンサート指揮者としてはN響の名誉指揮者としてたびたび来日、特にブルックナーの演奏の素晴らしさは今でも語り草となっているほどです。
「悲愴」はチェコフィルとブタペスト交響楽団との録音があります。

・チェコフィルハーモニー管弦楽団
(1968年 プラハ芸術家の家 スタジオ録音)
マタチッチは1960年代後半にチェコフィルにたびたび客演し、ブルックナーとチャイコフスキーの録音をいくつか残しています。
洗練さとはほど遠いスラヴ的な朴訥さを感じさせる演奏。早いテンポで豪快に仕上げた演奏でした。
第1楽章の冒頭は陰鬱な表情で始まりますが、70小節めブラスが初めて入る部分から急にテンポを早めます。このテンポの変化は少し唐突のような気がします。曲全体にぎくしゃくした印象があるのは、テンポと音量の変わり目が不自然であるのが原因であるようです。展開部は猛烈な早さで、男性的で熱い盛り上がりを見せます。チェコフィルの一種暗い独特な音色も効果的、ここで驚いたのは第1楽章の最大の見せ場280小節め、弦楽器が纏綿と慟哭する部分の直前で1小節カットしていました。後のブタペスト盤ではこのカットはないので編集ミスかもしれませんが、このカットが緊迫した緊張感を演出するのに一役かっています。
第2楽章の素朴な歌。第3楽章の行進曲は、さながらバッカスの狂乱。
コンクリート打ちっぱなしの建物のような頑固で朴訥、元気なころのマタチッチのギラギラしたどぎつさが出た個性的な演奏でした。

・ブタペスト交響楽団
(1978年ころ ライヴ録音)
マタチッチ晩年のライヴ、1980年前後にマタチッチはブタペスト響に客演し、その演奏のいくつかは、FMで放送されたことがあります。この演奏もおそらくそれらの一連の
録音からの海賊盤CDです。
チェコフィル盤とは全く別人かと思うような、遅めのテンポ深い悲しみに満ちた演奏。
晩年N響に客演した時の彫りの深さと感情移入の激しさがここでも感じられます。
基本はインテンポが支配していますが、第3楽章の後半は猛烈な加速。第1楽章の展開部も大きく動きます。しかしオケはそのマタチッチの意図を充分汲んでいるとはいえず、かなりモタモタしています。管楽器のソロもミス続出。
(2003.06.19)
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