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今回は、イギリスの二人の指揮者による「悲愴」です。 「サー・エードリアン・ボールト(1889〜1983)」 イギリスのチェスター生まれ、ライプツィヒ音楽院に留学し大指揮者ニキシュに師事。 1930年から創設まもないBBC交響楽団の音楽監督を務め、その後1950年から引退する1979年までロンドンフィルの音楽監督、会長を務めたイギリス指揮界の重鎮。 ボールトの録音歴は長く、1920年代からコンチェルトの伴奏など多く録音を残し、特にエルガーやヴォーン・ウイリアムスなどの近代イギリス音楽には、絶対的な評価を得ています。日本では、若い頃に伴奏録音が多かったのと、紹介された録音がイギリス音楽中心だったために、「惑星」専門の指揮者のような扱いを受け不当に軽い評価しか受けませんでしたが、若い頃ライプツィヒでニキシュの薫陶をうけたこともあり、ワーグナーやブラームスなどのドイツロマン派の作品にも正統派の名演を残しています。 ・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 (1950年代後半 スタジオ録音) ボールトの演奏は、効果を狙う所がなく一見地味で平凡な印象を与えかねないものが多いのですが、繰り返して聴くと毅然とした芯の強さがじわりと聞き手に伝わる何回聴いても飽きない演奏が多く、特にブラームスやベートーヴェンなどには抜群の強さを発揮しました。 しかし、「悲愴」のような曲にはいま少しハッタリをきかせた効果も必要だと思います。第1楽章の展開部のテンポの動きや第4楽章のクライマックス部分で早めたり、といった19世紀風の伝統的なテンポ設定は踏襲しているものの、几帳面さがどうも息苦しい雰囲気です。 「サー・アレキサンダー・ギブソン(1926〜1995)」 スコットランドのマザーウェル生まれ、マルケヴィッチとケンペンに師事。 スコティッシュ・ナショナル管の音楽監督のかたわらスコットランド・オペラを創設。活動の大半はスコットランドに限定されていたギブソンですが、録音はLP初期から多くの録音を残しています。とにかく渋く地味な印象のあるギブソンですが、イギリス音楽やシベリウスなどに正統派で奥の深い名演を残しています。 ・ロンドン新交響楽団 (1950年代後半 スタジオ録音) リーダーズダイジェスト社から1960年代初めに出ていた家庭名曲集中の1枚。 この曲集は一般家庭向けの企画であるものの、名録音技師ケネス・ウイルキンソンが録音が手がけ、レイヴォビッツ、ボールト、ギブソンなどスター指揮者ではないものの一筋縄ではいかない一家言を持った実力者たちを演奏家として起用した水準の高いものでした。 ロンドン新交響楽団は、最近はほとんど目にすることのないなじみの薄い団体ですが、 創立は1905年で、一時ロイヤルアルバート管と名乗ったこともありますが、1950年代ころには、ほとんど録音専用のフリーランスオケのような状態になっていたようです。 しかしオケの技術にうるさいストコフスキーも録音をおこなっていたほどで、ソロもうまく、演奏水準そのものはかなり高いものがありました。 この録音でもアンサンブルの精度はかなり高く、ギブソンの手際の良い指揮によく応えています。 この「悲愴」は、大きな効果は狙っていないものの、必要にして十分な音が鳴り響き、重心の低い骨太で男性的、強靭な鋼のような意思の力がみなぎる演奏でした。 ロシア的な重々しさよりも、ドイツ的な重厚さを感じさせ、テンポも早からず遅からず中庸の美学の好演。
(2003.06.16)
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