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「悲愴」を聴く34・・・イタリアの指揮者たち・・・カンテルリとジュリーニ
「グイード・カンテルリ(1920〜1956)」

未だに根強い人気のあるイタリアの指揮者カンテルリ。1956年にスカラ座の音楽監督就任直前飛行機事故により急逝。戦後の指揮者の中ではずば抜けた才能の持ち主だった
だけに、今でも生前のライヴが続々とCD化されています。「悲愴」はスタジオ録音とライヴ録音が残されました。

・フィルハーモニア管弦楽団
(1952年 12月 ロイヤルアルバートホール スタジオ録音)
カンテルリのチャイコフスキーのスタジオ録音は、ミラノスカラ座管による第5番の録音もあり、こちらは正確無比なこの曲のスタンダードとも言える名演でした。
フィルハーモニア管を振った「悲愴」も快適なテンポ感覚、よく歌いスタイリッシュで直線的な優れた演奏だと思いますが、こちらは第5番ほどの感銘は受けませんでした。
第1楽章展開部直前は、バスクラリネットを使用せずファゴットに吹かせていましたが、同じ展開部の185小節め弦楽器と木管楽器が交互に16分音符で早いパッセージを奏する部分を、デニス・ブレイン率いる当時世界最強のホルンセクションに吹かせているようです。続く第2主題の再現部分で早いテンポでさらりと流す部分など見事とはいえますが、続くクラリネットソロのミスをそのまま残したのは不可解でした。音楽の流れを重視したのでしょうか。
直球一本の真剣勝負のような演奏ですが、細部の緻密さに欠けるのが惜しいと思います。

・NBC交響楽団
(1953年 2月12日 カーネギーホール ライヴ録音)
イタリアのレーベルアルカディアから出ていた、カンテルリのチャイコフスキー交響曲集中の1枚。この曲集には、他に4番(2種)5番が収録されていますが、細部は鮮明ですが、ピッチが多少低いようで、カンテルリの優れた演奏を最上の形で伝えているとはいえないようです。
演奏そのものはライヴながら完成度の高いもの、第1楽章の展開部や第2楽章で幾分重さを感じさせるのは、オーケストラがカンテルリの棒にうまく乗りきれていないからでしょうか。第3楽章以降は次第に調子を上げ、引き締まった響きで、緊張感溢れる古典的なスタイルともいえる好演でした。
第3楽章冒頭部分のある種、可笑しみを持たせたかのような木管楽器の表情は、他に類のない表現であるだけに印象に残りました。
なお、第1楽章展開部直前のppppppはこちらもファゴット使用、終結部クラリネットソロ部分のホルンはミュートを使用していました。

「カルロ・マリア・ジュリーニ(1914〜)」

イタリアのヴァレッタ生まれ、数々のイタリアオペラからコンサートピースまで、
優れた多くの演奏を残した巨匠。細部までこだわりを見せた真摯で厳しい芸風は、
その緊張感ゆえに時には息苦しささえ感じさせることもありますが、ベートーヴェンやブルックナーのような作品になると比類のない風格を見せた演奏となりました。
1998年引退。
「悲愴」はスタジオ録音2種とライヴ録音1種があります。

フィルハーモニア管弦楽団   1959年  スタジオ録音
フィルハーモニア管弦楽団   1961年  ライヴ録音
ロスアンジェルスフィルハーモニック  1980年 スタジオ録音

・フィルハーモニア管弦楽団
(1961年 9月7日 エジンバラ アッシャーホール ライヴ録音)
ジュリーニ壮年期の名演。61年録音ですがモノラル。熱狂とのびやかな歌心のバランスが良い、気品に満ちた演奏です。第1楽章の展開部、第3楽章の後半の加速も実に自然。第3楽章の頂点でぐっとテンポを落とすのは往年の指揮者たち共通の解釈で、当時のジュリーニもまだその影響下にあったようです。第4楽章での弦楽器をたっぷりとした歌わせ方のコントロールも見事なものでした。第4楽章の終結部で極端にテンポが落ちるのが印象的。

・ロスアンジェルスフィルハーモニック
(1980年 ロスアンジェルス シュテイン・オーディトリアム スタジオ録音)
ロスフィル音楽監督時代の録音。このころのジュリーニの完璧で隙のない細部まで掘り下げた演奏は、曲想にぴったりはまった時は比類のない感銘を与えましたが、時として聞き手に音楽の流れに停滞感を感じさせることがあったと思います。
この演奏も後者の代表的な例で、きわめて立派な演奏ですが、意外と聴いた後の印象が薄い演奏でした。
第3楽章や第1楽章のティンパニの強調など、ここぞ、という場所で見事に決まってはいるのですが、演奏全体としてひんやりと冷めた印象です。中では不思議な静けさをたたえた第4楽章は良いと思いました。
デジタル録音初期の薄い響きも、このような冷たさを助長しているようでした。
(2003.06.21)
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