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今回は48歳の若さで病に倒れたハンガリーの名指揮者フリッチャイの二つの悲愴です。 「フェレンツ・フリッチャイ(1914〜1963)」 ブタペスト生まれでバルトークやコダーイに師事、15才で指揮デビュー、ブタペスト国立歌劇場の指揮者の後、創設間もないベルリン放送響の音楽監督となり、このオケをベルリンフィルと並ぶ水準に引き上げました。その後ヒューストン響の音楽監督を経て、バイエルン国立歌劇場の音楽監督のかたわらベルリン・ドイツオペラの音楽監督も兼任といった多忙な日々を送っていましたが、白血病に倒れ48才の若さで没してしまいました。 鋭敏なリズム感と柔軟なテンポ運びを兼ね備えたフリッチャイの音楽は、その晩年にはスケールの大きさと異様なまでの緊張感も備わり、フルトヴェングラーにも通じる凄みさえ感じさせる録音を残しています。特に史上最も遅い「運命」などは、尋常でない雰囲気が漂っていました。 「悲愴」は以下の3つの録音があります。 ・ベルリンフィル 1953年 7月 スタジオ録音 ・ベルリン放送交響楽団 1959年 9月 スタジオ録音 ・バイエルン放送交響楽団 1960年 5月 ライヴ録音 今回は、ベルリン放送響とバイエルン放送響との二つの名門放送オケを振った演奏を聴いてみました。 ・ベルリン放送交響楽団 (1959年 9月 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) スタジオ録音後実に40年近く発売されずにいた録音。第1楽章の一部にフリッチャイの気に入らない部分があり、採り直す予定であったのが、フリッチャイの死により再録音を果たせずお蔵入りとなっていた演奏。しかしあまりにも素晴らしい演奏であったために、フリッチャイの遺族の承認を得て発売されたものです。 録音後40年経て発掘されたというだけに、異常なほどの緊張感に満ちた名演奏でした。 深く沈潜していく第1楽章冒頭部分からして尋常でない雰囲気です。第2主題で各楽器固有の音色を超えてしまって真実の響きを聴かせる弦楽器の音は、まるでフルトヴェングラーが乗り移ったかのような鬼気迫るものがあります。第2楽章の自由闊達な表現と結晶化した純粋な音、第3楽章はまるでベートーヴェンのよう、クライマックスの直前には大きくテンポを落とし、終結部は猛烈な加速。フルトヴェングラ−のようでいて、完全にフリッチャイの様式化しているのは見事。バスの響きがズシンと応える慟哭の淵に落ちていく第4楽章は完全に泣きの音楽。 ・バイエルン放送交響楽団 (1960年 5月 バイエルン ヘラクレスザール ライヴ録音) ベルリン放送響盤よりも、さらに深い感情移入を見せた演奏。曲想の変わり目の間の取り方が異常に長いのに、緊張感が弛緩しないのは不思議でした。 第2楽章も優雅に歌っていますですが、シベリウスの「悲しきワルツ」を連想させるような死の気配が漂っています。第4楽章は、後半はもう止まりそうなほど遅く、聴いていてこれはいくらなんでも遅すぎるななどと思いました。この演奏はあまりにも厳しい表現のため、万人向けとはいえない演奏だと思います。
(2003.06.04)
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