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「悲愴」を聴く25・・・日本の指揮者たち2 ・・・小澤征爾と岩城宏之
今回は、小澤征爾と岩城宏之の悲愴です。

「小沢征爾(1935〜)」

小沢征爾の悲愴には、以下の3つの録音があります。
・パリ管弦楽団         1974年
・ボストン交響楽団       1986年 
・サイトーキネンオーケストラ  1995年
いずれもスタジオ録音。
今回はパリ管とサイトーキネンオーケストラとの演奏を聴いてみました。

・パリ管弦楽団
(1974年 パリ ワグラムザール スタジオ録音)
オザワ39歳の録音。同時期の小澤はパリ管を振って「火の鳥」、チャイコフスキーの
交響曲第4番などの名録音を残し、相性の良いところを見せていました。
当時の小澤の音楽には、若々しさの中に華のあるなかなか魅力的な演奏が多く、特にパリ管のような色彩感覚豊かなオーケストラを振った場合、両者の相乗効果によって抜群の効果を見せていました。
しかしこの「悲愴」は音楽に余裕がなく、オケもいまひとつ乗りきれない演奏でした。
中でもバレー音楽のような柔らかさを前面出した第1楽章と悲劇性を感じさせる第2楽章の対比が、なんとも焦点が定まらない印象を持たせました。弦楽器の歌わせかたのうまい第4楽章やリズミカルな第3楽章は、生き生きと音楽が躍動してくるものの、このころの小澤としては失敗の1枚だと思います。
第4楽章のホルンのゲシュトップは普通に吹いているようです。

・サイトーキネンオーケストラ
(1995年 9月 松本文化会館)
パリ管盤のような構えた不自然さのない抱擁力のある巨匠の音楽です。隙のない純粋で透明感のある響きが独特の魅力を発散しています。小澤と一体となって動くオケも完璧で、カラヤンやムラヴィンスキーのようなデモーニッシュな凄みは感じられませんが、楽譜に書かれた音を純粋に再現した素晴らしい名演だと思います。特に第4楽章の50小節めから、ホルンのシンコペーションに乗って歌う木管楽器の響きが強く心に残りました。


「岩城宏之(1932〜)」

N響の正指揮者岩城宏之は、1956年に「悲愴」を指揮してデビューしました。
録音も若い頃にN響を振ったものがあります。

・NHK交響楽団
(1967年6月15,16 厚生年金会館 スタジオ録音)
こちらも岩城宏之35歳の演奏。今ならばもっと円熟した演奏を見せるのでしょうが、
この演奏は当時の岩城宏之の一つ特徴であった爆発するような前へ前へとばく進するところを見せた演奏です。中でも第1楽章の展開部以降の迫力はなかなかのものですが、ものものしい表情で始まる第1楽章冒頭と、ポルタメントをつけた甘い第2主題の歌わせ方など、どうも古臭い演奏です。また、弦楽器の旋律に極端なアクセントをつけるために、音楽の流れがせき止められているような感じです。第2楽章の中間部で極端にテンポを落としヴィヴラートをかけながら歌う弦楽器も浪花節的なダサさを感じてしまいました。
N響は世界的な水準に達した立派な演奏ですが、第3楽章のクライマックスで響きが薄くなるのは、この当時のN響の限界なのかもしれません。
(2003.06.04)
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