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今回からは、フランス系の名指揮者たちのよる演奏を紹介します。 「ジャン・マルティノン(1910〜1976)」 フランスのリヨン生まれ、ダンディ、ルーセルに作曲、ミュンシュに指揮を師事。 ラムルー管、シカゴ響、フランス国立放送管の首席指揮者を歴任し、ルーセルや ドビュッシーに明晰で力強い演奏を残しています。 「悲愴」は珍しくもウィーンフィルを振った録音があります。 ・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1958年 3月31日〜4月6日 ウィーン ソフェンザール スタジオ録音) マルティノン唯一のウィーンフィルとの共演にして、唯一のチャイコフスキー録音。 ステレオ初期の代表的な名盤。緊張感の漂う、甘さとは無縁の厳しさに溢れた大変な名演です。美しい響きのウィーンフィルの特性を最大限に引き出しながら、クライマックスでは硬質の凝集力に満ちた壮大な盛り上がりを築いています。ロシアのスタイルとは別の次元のさわやかな清涼感も感じさせます。 第2楽章のワルツで、5拍目のチェロのグリッサンドをこれほど優雅に演奏させた演奏 は他にありません。中間部での羽毛のように繊細な弦楽器の響きはウィーンフィル独特のもの。第1楽章の第2主題のアンダンテはかなり遅く、第4楽章でもホルンのシンコペーション後のアンダンテを止まるかのような遅さで演奏させるなど、独特のテンポ運びを見せます。第3楽章のスケルツォでも、猛者揃いのウィーンフィルを思うがままにドライヴし、隙のない男性的なクライマックスを見せます。 ロシアのローカルなスタイルとは異なる普遍的な名演。 なお第1楽章展開部直前のppppppは、指定通りファゴットを使用。 「アンドレ・クリュイタンス(1905〜1967)」 ベルギーのアントワープ生まれ、アントワープの王立劇場の合唱指揮者としてスタート、同劇場の音楽監督の後、トウルーズ、リヨン、ボルドーなどのフランスの歌劇場の音楽監督を経て1949年からパリ音楽院管の音楽監督を1967年に没するまでその地位にありました。クリュイタンスといえばパリ音楽院管との一連の近代フランス物の録音が有名ですが、バイロイト音楽祭にもしばしば客演するなど、ワーグナーなどドイツ物の録音も残しています。 クリュイタンスは残念ながら「悲愴」の全曲録音は残せませんでしたが、第3楽章のみウィーンフィルを振った録音があります。 ・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (第3楽章のみ) (1958年 12月9日〜13日 ウィーンムジークフェライン スタジオ録音) クリュイタンスはウィーンフィルの指揮台に頻繁に登場しましたが、録音はあまり残っていません。この悲愴は、「交響曲のお誘い」というアルバムに収録されているもので、 ほかに「新世界」の第2楽章、モーツァルトの交響曲第40番第1楽章、など有名曲の 一つの楽章のみがカップリングされています。いずれもクリュイタンスが全曲録音を残さなかった曲ばかりでした。 この「悲愴」は、おそらくリハーサルもほとんどない一発取りの録音だと思います。 ウィーンフィルに全てを任せながらも、次第に自分のペースに引き入れていく、巨匠の音楽。テンポは遅めで細部まで緻密に描き分けた演奏でした。 この力の抜けた音楽造りは、美しさは充分に感じさせますが、同じウィーンフィルを振ったマルティノン盤に比べると、幾分緊張感に欠けた物足りなさも感じました。
(2003.03.23)
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