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「悲愴」を聴く11・・・ロシアの指揮者たち3 バルシャイ
「ルドルフ・バルシャイ(1924〜)」

旧ソ連ラビンスク出身、モスクワ音楽院でヴィオラを学び、レニングラードで名教師ムーシンに指揮を学びました。ヴィオラ奏者としては国際的な名手で、かつてボロディン弦楽四重奏団のメンバーでもあり、ソロの録音もあります。
モスクワ室内管弦楽を組織し、ヴィヴァルディからバルトーク、現代作品まで、数多くの録音を残しました。ショスタコーヴィッチも得意とし、「死者の歌」を初演、最近はケルン放送交響楽団との交響曲全集が大変な話題となりました。
1977年にイスラエルに亡命。以後はボーンマス交響楽団(1983〜1988)首席指揮者。その後秋山和慶の後を継いでヴァンクーヴァー交響楽団(1985〜1988)音楽監督に就任しましたが、急激な財政難に陥りオケは活動停止に追い込まれ、バルシャイも辞任することになってしまいました。現在はフリーとして日本にも何度か訪れています。
モスクワ時代のバルシャイの録音は、鍛えに鍛え抜いた恐ろしいほどの緊密なアンサンブルで、無駄のない筋肉質の演奏を聴かせました。ヴィヴァルディなどでは、幾分息苦しさも感じさせましたが、特にバルトークや現代作品では緊張感溢れた素晴らしいものがありました。「悲愴」はヴァンクーヴァー響とのスタジオ録音があります。

・ヴァンクーヴァー交響楽団
(1988年ころ ヴァンクーヴァー スタジオ録音)
カナダ放送協会による録音。CDの解説書には、録音プロデユーサーやエンジニアの名前はありますが、録音年月日と場所の記載がない不思議な1枚。
ロシア的な豪快さやダイナミックさとは無縁の端正で上品な演奏。楽譜に書かれている
弦のグリッサンドを何箇所で実行しないなど、ロマンティックさや感傷を排除している印象を持ちました。
早いテンポで進める第1楽章の冒頭から展開部分までは、各声部見通しが良く指揮者のセンスの良さが光っていましたが、展開部からは緊張感に欠け、オケも性能の限界で演奏している様子が見えてしまっています。なお展開部直前のppppppは、バスクラではなく譜面のとおりファゴットに吹かせています。
第2楽章での弦楽器の内声部の歌わせ方のうまさにはさすがのものがありますが、特に第3楽章以降は、カロリー不足でパンチ力が不足しているように感じました。これは、オケの無個性な響きにも関係がありそうです。早いテンポでなにごともなく、スルスルと流れていく第4楽章などかなり平板な出来です。
バルシャイは、もともと大衆的な演奏スタイルとは無縁の指揮者でしたが、このようにオケに対する統率力が弛緩してしまうと、どうにも中途半端な結果になってしまうようです。
若い頃のモスクワ室内管弦楽団との鋼鉄のようなアンサンブルの録音と比べると、別人のようなユルイ演奏でした。
(2003.03.16)
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