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「惑星」を聴く7・・・ストコフスキー

「レオポルド・ストコフスキー(1882〜1977)」
ロンドン生まれ、非常に長い芸歴を誇り大衆的な人気も得ていた指揮者界の怪物指揮者ストコフスキー、ロンドン生まれとはいえ活動の中心はアメリカでした。
「惑星」をいち早くイギリス国外で紹介し、国外で初めて「惑星」を録音した指揮者です。

・NBC交響楽団、合唱団
 (1943年2月14日 ライヴ録音)
作曲者の自演録音後、プロの指揮者による「惑星」の初録音。ストコフスキーは、ホルストが没した時にフィラデルフィア管弦楽団を振って「惑星」を演奏しています。この時のストコフスキーは、ホルストの自演録音を取り寄せて、演奏の参考としたそうです。
NBC交響楽団との録音は、ストコフスキーが結成まもないこの楽団のために、モントゥーやロジンスキー、近衛秀麿らとともに顧問を務めていた時期の録音で、おそらく放送用の録音だと思われます。
NBC響が「惑星」を演奏するのは初めてということで、いたるところで大きなミスが続出、“火星"ユーフォニウムソロ直後のトロンボーンなどは、完全に1小節早く飛び出したりで、なかなかスリリングな演奏です。ストコフスキーは、曲の魅力を最大限に引き出すために、スコアに手を加えたり楽器の配置を大胆に変えることを常としていましたが、現代作品の初演の際は極めて楽譜に忠実な演奏をしたそうです。この演奏も作曲者の自演の影響を受けた速いテンポでバリバリと進めていて、全般に楽譜の改変もなく楷書風の演奏といえます。
ポルタメントを多用した“金星"は、幾分古めかしさはありますが、官能的な雰囲気をうまく出していました。

・ロスアンゼルスフィル、ロジェ・ワーグナー合唱団
 (1956年 スタジオ録音)
「惑星」のステレオ初録音。このストコフスキーとカラヤン&ウィーンフィル盤の存在が、この曲の普及に大きな役割を果しました。演奏は、色彩感豊かな演奏ですが、ストコフスキー他の演奏のように官能的でどぎつさの感じられるものではなく、曲想の変わり目のタメを意識的に排除したすっきり系の演奏でした。各声部の歌わせ方も明快で、非常にわかりやすい演奏と言えると思います。
また楽譜に何箇所か手を加えていて、“火星"終結部のタムタムの息の長いクレッシェンド追加や強奏部分のピッコロ追加、“木星"のホルンのトリル追加など、いたるところに耳慣れない音が聞こえて来ます。全曲中では、デユカスの“魔法使いの弟子"を連想させる“天王星"が傑作で、オケを思い切ってドライヴし、ユーモアとスケルツォ風の軽やかさを巧みに表現していました。“海王星"で遙か遠くから聞こえてくる女声合唱の弱音の扱いが実に秀逸。

*ストコフスキーとホルストは、同じ時期にロンドンの王立音楽院で学んでいることに気がつきました。
ホルストが亡くなった時に、いち早く追悼演奏で「惑星」を取り上げたり、積極的に録音を行っている事実を見ると、二人の間には、なんらかの接触があったのかもしれません。
(2004 8・24追記)

(2002.08.20)
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