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「惑星」を聴く15・・マゼールとメータ

今回は、かつてはアバド、小澤征爾らとともに、ポストカラヤンの代表的な候補者であったマゼールとメータの惑星。

「ロリン・マゼール(1930〜)」
フランス生まれ、父はオランダ人で母はロシア人とハンガリー人の混血。父方の家系は代々ロシア帝室軍楽隊の音楽監督の家柄で、祖父はメトロポリタン歌劇場のコンサートマスターだった。
9才で指揮者デビュー、ヴァイオリンも一流でコンチェルトの録音もあります。ベルリン放送響、ベルリン・ドイツオペラ、クリーヴランド管、フランス国立管、ウィーン国立歌劇場、ピッツバーグ響、バイエルン放送響の音楽監督を歴任の後、2002年よりニューヨークフィルハーモニックの音楽監督。
カラヤン亡き後のベルリンフィルの音楽監督にアバドが決定した後、強力な対抗馬だった
マゼールは、ウィーンとベルリンの音楽会から疎遠となってしまい、腰の落ち着かない印象を受けましたが、最近では関係は改善し、録音もおこなうようになりました。

・フランス国立管弦楽団、女声合唱団
(1981年 7月4、5日 パリ、フランス国立放送局104スタジオ)
フランスのオケによる珍しい惑星。ラヴェル風の透明で精密機械のような「惑星」とでも言いましょうか、“海王星"など、ラヴェルの歌劇“子供と魔法"のエコーが聞こえます。
各曲のテンポ設定には独特なものがあり、全体に早めのテンポであるものの、例外的に遅めの“火星"では各旋律がレガート気味に楽器を受け渡し、巨大なクライマックスを造ります。最終音のフェルマータは随分と長く、途中でトロンボーンが息切れのため、ブツブツとブレスの音が入るのには驚きました。“木星"では、終結部にスコアのないスネアドラムを加えるなど、随所に効果を狙った演出があります。“火星"のテナーチューバソロでは、C管のチューバを使用しているようです。
特にさらりと流し、哀愁さえも漂う“金星"“海王星"が印象に残りました。
“金星"のヴァイオリンソロも雰囲気満点の1級品。

「ズービン・メータ(1936〜)」
インドのボンベイ生まれ、父はボンベイ交響楽団の創設者といった恵まれた音楽環境で育つ、ウィーンでスワロフスキーに指揮を学んだ後にモントリオール響の音楽監督を経て1968年から1978年までロスアンジェルスフィルの音楽監督として楽団の黄金期を作り上げた。
思えばこの時期がメータが一番輝いていた時期だったと思います。
1978年から1991年までニューヨークフィルの音楽監督、1998年からバイエルン州立歌劇場音楽監督。
メータの音楽は録音で聴くと、肉厚で、ある種の官能的さも漂うイメージがありますが、実演で聴くと、実にオーソドックスで正統派のドイツ音楽を聴かせました。
「惑星」は二つの録音があります。

・ロスアンジェスルフィルハーモニー、ロスアンジェルスマスターコラール
(1971年 4月 UCLAロイスホール スタジオ録音)
発売当時大評判となり、メータの評価を決定的とした演奏で1972年のレコードアカデミー賞受賞盤。この当時、イギリス以外での「惑星」の優れた録音はあまり多くなく、競合盤もカラヤンぐらいだったと思います。
整然としたまとまりの良い演奏だとは思いますが、現在の耳で聴くとさほど凄い演奏とは思えませんでした。この演奏の大きな魅力は、当時30代の柔軟なメータの指揮ぶりと、ロスアンジュエルスフィルに在籍していた、チューバの名手ロジャー・ボボの名人芸で、オケの響きをがっちりと下から支え、“火星"や“天王星"でのフォルティシモでの音を割ったチューバの凄まじい響きは他の演奏からは絶対に聴かれないものです。

・ ニューヨークフィルハーモニック、ニューヨークコラール・アーティスツ
(1989年 11月 ニューヨーク、マンハッタンセンター スタジオ録音)
演奏のまとまりや細部の描き分けの緻密さでは、こちらが上だと思います。
ただ全体に冷めた気配が漂っているために、強奏での響きも空虚になりがちでした。
この曲のある種の弱さが露呈してしまっています。


(2002.10.01)
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