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「惑星」を聴く14・・・バーナード・ハーマンとジョン・ウイリアムス

今回は数多くの映画音楽の名作を残したバーナード・ハーマンとジョン・ウィリアムスによるふたつの惑星。

「バーナード・ハーマン(1911〜1975)」
ニューヨーク生まれ、ジュリアード音楽院で作曲を学びCBS放送に入社後は、CBS交響楽団の指揮者としてアイヴスを中心とした数多くの現代曲を放送で紹介しました。
バーナード・ハーマンといえば、オーソン・ウェルズの「市民ケーン」や、内容があまりにもリアルであったために聴いていた視聴者が真実だと思い込みパニックとなった歴史的事件、ラジオ番組「宇宙戦争」の音楽、そして一連のヒッチコックの名作群などの映画音楽の作曲者としてあまりにも有名ですが、一時映画界から身を引き、イギリスに居を構えた時にいくつかのクラシックの録音を残しています。
1975年にロバート・デニーロ主演の「タクシードライバー」で映画音楽界に復帰しましたが、「タクシードライバー」のサウンドトラックの録音が完成したその晩に心臓発作で急逝してしまいました。

・ロンドンフィルハーモニー、合唱団
(1970年前後 ロンドンキングズウエイホール スタジオ録音)
バーナード・ハーマンは、映画音楽を作曲する時には、既成の常識に囚われない大胆な楽器編成のオーケストラを準備し、録音をおこなったそうです。
(ホルン16本、バスフルートを含んだフルート12本編成のオケやハープ9台を同時に使用したりなど)。この「惑星」でも、“火星"や“天王星"にドラの1発を書き加えたりしていて、オーケストラの響きを知り尽くした人ならではの色彩豊かな演奏を聴く事ができます。解釈そのものは比較的遅いテンポ、ドロドロした極めてユニークなもの。
インテンポで進む“火星"は、終結部の寸前で極端にテンポを落とし、叩きつけるようなフルオーケストラとオルガンの絶叫が、聞き手を恐怖と絶望のどん底に叩きこみます。
“木星"アンダンテ・マエストーソも極端に遅いテンポを取り、歓喜よりも屈折した不気味さを演出。“土星"でのベースとティンパニの2、4拍目のタメも絶妙。“天王星"の木管と打楽器のぎくしゃくとした不気味な絡み合いが実にユニークな効果を上げていました。

「ジョン・ウィリアムス(1932〜)」
ニューヨーク州フラッシング生まれ、16歳のころから作曲を始め、ジュリアード音楽院ではピアノを学ぶ。「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ジョーズ」「スターウォーズ」といった映画音楽で知られる現代映画音楽界の巨匠。その一方で1980年からアーサー・フィードラーの後を継いでボストン・ポップスの常任指揮者。

・ボストン・ポップス、タングルウッド祝祭合唱団
(1986年5月31日〜6月3日 ボストンシンフォニーホール スタジオ録音)
ジョン・ウィリアムスは、「スターウォーズ」を作曲するにあたって「惑星」のオーケストレーションを徹底的に分析したそうです。この「惑星」の演奏は、細部までクリアに描き出された名演。ボストン交響楽団の別働隊であるボストン・ポップスも実に見事な演奏を聴かせます。確かに“火星"の一部には、「スターウォーズ」のエコーが聞こえたりしますが、解釈そのものは楷書風の正統派。幾分メタリックで冷ややかな響きが、現代風の印象を感じさせます。“火星"の最後にドラを加えたり、“木星"終結部で、テンポをゆっくりとさせながらフェルマータを極端に長く取ったりするなどの演出を見せますが、嫌味さは感じさせませんでした。


(2002.09.16)
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