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ラヴェル版の「展覧会の絵」が依頼主のクーゼヴィッキーによってパリ初演されたのは 1923年で、これがセンセーショナルな大成功を収め、以後さまざまな作曲家や演奏家たちが「展覧会の絵」のオーケストレーションに挑戦することになりました。 レナルディ、カイエ、ストコフスキー、ゴルチャコフ、ゲール…・などなど、しかし演奏家としてはともかく作曲家としては小物ばかりで、いわゆる大作曲家と呼ばれている人たちは編曲に手を染めていません。結局超一流の作曲家達の目にはラヴェルの編曲があれば十分だと写ったのでしょう。 <ルシアン・カイエ編曲 1937年> 1930年代から50年代までのアメリカの音楽界は、ナチのユダヤ人の迫害から逃れた優秀な音楽家達が多量に流入し、極めて高い水準にあって特にオーケストラはビッグスリーの時代と呼ばれ、クーゼヴィッキー&ボストン響、ストコフスキー&フィラデルフィア管、トスカニーニ&ニューヨークフィルの3団体が水準の高さを競い合っていました。 当時「展覧会の絵」のラヴェル版は、クーゼヴィツィキーが5年間の演奏権を持っていたので、完全にボストン響の独占状態でした。一方のフィラデルフィア管は、楽団のバスクラリネット奏者で、楽団専属のアレンジャーであったルシアン・カイエ(1891〜1984)が、「展覧会の絵」のオーケストラ編曲を手がけることになりました。 フランス生まれのカイエは、ストコフスキーの元で多くの編曲技術を学び、フィラデルフィア管の常任指揮者がオーマンディに変った後も、バッハやラフマニノフなどの多くの鍵盤作品のオーケストラ編曲を手がけています。楽団を離れてからも、膨大な数のオーケストラや吹奏楽のための編曲を残し、特にワーグナーの「エルザの大聖堂への入場」の吹奏楽への名編曲は、今でもよく演奏されています。 カイエ版の録音は、オーマンディ指揮フィラデルフィア管による録音が残されています。 今回は、イギリスのビダルフレーベルと、ドイツのヒストリーレーベルの復刻盤を聴いてみました。音源はどちらも同一です。 カイエの編曲は、5番目のプロムナードも含む完全全曲版です。冒頭のプロムナードはフルートで始まり、木管楽器、ホルン、弦楽器といった具合に対話形式で進みます。 「古城」はイングリッシュホルンとオーボエ、「ヴィドロ」はホルンのユニゾンで始まります。特徴的なのはこのヴィドロで、異様に早いテンポで軽い響きのコミカルな曲に仕上がっていました。 ラヴェル版が普及し始めた後の編曲だけに、あえてラヴェル版の影響を排除しようとしているのが、チラホラ見えてくる編曲ですが、特に「テユイリー」や「殻をかぶった雛の踊り」「リモージュ」などの軽い曲は、色彩感の豊かさの中にアメリカ風のポップな感覚もあり、楽しめる編曲でした。 カイエの編曲は、フィラデルフィア管という高性能のオケでの演奏を前提としているために、かなり高度な演奏技術を要求しているようです。 オーマンディーの演奏は、貧弱な録音でかなり損をしていますが、管楽器のソロの上手さは特筆もの。このフランス風のカラフルな編曲に彩りを添えています。 復刻状態はビダルフ盤が丁寧な仕上がりで好感が持てました。一方のヒストリー盤は10枚組3,000円前後の超廉価盤で、細部が不明瞭であまり上等な復刻ではありませんが、とにかく珍しい録音が数多く入っている徳用盤です。
(2002.02.06)
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