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「展覧会の絵」を聴く29・・・カラヤン
「ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908〜1989)」
カラヤンの「展覧会の絵」には、フィルハーモニア管とベルリンフィルによる2種スタジオ録音があり、86年のベルリンフィルとの再録音には映像もあります。
今回はフィルハーモニア管と66年ベルリンフィルとの二つのスタジオ録音と、
1987年ザルツブルク音楽祭でのライヴのFMエアチェックテープを聴いてみました。

フィルハーモニア管弦楽団
(1955年 10月11日 スタジオ録音)
フィルハーモニア管との録音を重ねていたカラヤンが、ステレオ時代となるやいち早く
録音したのが「展覧会の絵」でした。
これは遅いテンポの演奏ですが、オケの響きが比較的軽いために重くは感じません。「古城」や「チュイリー」での若々しくもしなやかな歌い回し、「カタコンブ」で劇的な部分をことさら強調するなど、後のカラヤンの芸風を予感させますが、曲全体を通じて聴いた場合、幾分散漫な印象です。
オケは優秀ですが、なぜか「ヴィドロ」のチューバの音程が半音低いように聞こえます。カラヤンほどの指揮者がなぜこのままの演奏でOKを出したのか、不思議なほどこれはおかしな演奏でした。全体として後の録音に比べると精緻さに欠け、線の細い印象です。

・ベルリンフィル
(1965年 11月4,9日 スタジオ録音)
ドイツグラモフォンで録音されていたカラヤンの演奏は、このころからカラヤン独特の精密さと艶っぽさをうまく捉えることに成功し、発売される録音のほとんどが、クラシックレコードの上位を独占するようになりました。
演奏は、非常に遅いテンポ。この録音は「展覧会の絵」のステレオ期の代表的な演奏だったのですが、再度聴き直してみてこれほど遅いとは思いませんでした。三番目のプロムナードなどはチェリビダッケ以上の遅さです。
冒頭プロムナードのレガート気味のトランペット、緊張感溢れるピアニシモから巨大な
フォルティシモまで、驚異的なダイナミックレンジの広さを誇るカラヤンならではの演奏です。ベルリンフィルの合奏力も抜群で、特に「キエフの大門」では一様のヴィヴラートをかけた金管群の輝かしい響きが圧倒的な迫力でせまってきます。
また「グノーム」のムチがクラヴェスのように木を叩くような音だったのが妙に印象に残りました。

・ベルリンフィル
(1987年 8月28日ザルツブルク音楽祭ライヴ)
最晩年のザルツブルク音楽祭のライヴ。当時のエアチェックテープです。
ライヴながら完璧ともいえるアンサンブル。磨かれ尽くした音響とダイナミックレンジの
異様なほどの広さで、これは凄まじい演奏となりました。
特に消え入るようなピアニシモから強烈なクライマックスに盛りあがる「ヴィドロ」の大太鼓とティンパニの迫力ではただごとではありません。「テユイリー」や「卵の殻を被った雛鳥踊り」の軽妙さも見事。テンポはやはり遅めですが、曲全体が考え抜かれたテンポ設定に支配されているために、停滞感はありません。「カタコンブ」の巨大さ、「ババヤーガの小屋」の打楽器群の連打、そして巨大な音の大伽藍が聳え立つ「キエフの大門」は、66年録音以上の圧倒的な存在感を示し、終結部にはパイプオルガンまで加わっていました。まさにカラヤンの音響美学の到達点。
(2002.05.12)
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