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「アシユケナージ編曲版」 ・アシュケナージ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 世界的なピアニストであり、チェコフィルの首席指揮者でもあるアシュケナージは、実に 多種多様な「展覧会の絵」の録音を残しています。 ピアノ録音2種、ビデオ1種、指揮者としてはフンテク版の映像と、自らのオーケストラ用編曲の録音があります。 フランス的な鮮やかさに彩られ、ムソルグスキーの本来の音楽から離れてしまったラヴェル編曲に対して、ロシア人側の視点から、よりムソルグスキーの原典に近づけるために編曲されたアシュケナージ版。 しかし私の聴いた印象では、ストコフスキー版やゴルチャコフ版のようなロシア的な土臭さといった色合いはあまり感じず、「展覧会の絵」の描写的な部分をかなりデフォルメした形で見せた編曲だと思いました。 冒頭のプロムナードはトランペットユニゾン。2番目のプロムナードはホルンソロといった具合でラヴェルと似ていますが、「殻を被った雛の踊り」のコケーッコは2回、「サミエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」の終結部のドレシシ、をはじめとして、リムスキー・コルサコフ版のピアノ譜に基づいて作曲したラヴェル版の過ちを、かなり意識的に修正しています。 「サムエルゴールデンベルクとシュミイレ」では低音弦とヴァイオリンソロの対話として、裕福なユダヤ人と貧相なユダヤ人の落差をどの編曲よりも極端に表現していました。 「古城」のソロはイングリッシュホルン、「ヴィドロ」冒頭はホルンのユニゾンで開始し、中間部ではティンパニとムチの乱打で強烈なクライマックスを築きます。これは牛にムチを叩きつける様の描写でしょうか。 乱暴なほどバーバリスティックな「ババヤガの小屋」、打楽器の乱打、金管絶叫調の「キエフの大門」の終結部など全体的にヒステリックな編曲で、あの美しいピアノ演奏を披露するアシュケナージの手になるものとは思えない原色調の編曲でした。 「富田勲編曲版」 ・ 秋山和慶指揮東京交響楽団 シンセサイザーによるドビュッシー、ホルストなどが世界的なベストセラーとなった富田勲の 編曲です。富田勲には「展覧会の絵」「禿山の一夜」のシンセサイザー用の編曲もありますが、これから紹介するのは手塚治虫のアニメーションのためのオーケストラ用編曲です。 手塚治虫はディズニーのファンタジアに触発されて、クラシック音楽とアニメーションを融合した作品をいくつか書いています。「展覧会の絵」は1966年の作品で、当初ラヴェル版の録音を使用する予定だったのが、ラヴェル版は莫大な著作権料がかかるということで急遽富田勲が1週間で仕上げた作品です。 冒頭のプロムナードはチェンバロのソロで始まる意表をついた開始、やがて弦楽器も加わる。以後プロムナードは全てチェンバロと他の楽器の掛け合いで進行します。 「グノーム」は、エレキギターとミュートを付けたトランペットによるポップス調、 「古城」では、合唱(無歌詞)に乗って口笛が旋律を歌い、次第にマンドリンやアルトサックスまで加わる富田勲ならではの世界。 「ヴィドロ」の旋律はトロンボーンと合唱、「サムエルゴールデンベルクとシュミイレ」は コントラファゴットとミュートをつけた金管楽器といった具合で、各所で意表をつかれる楽器使用が目白押しです。 しかし「殻をつけた雛の踊り」や「カタコンブ」については、さすがに他の編曲と余り差はありませんでした。 「ババヤーガ」はエレキ楽器中心、最後の「キエフの大門」では合唱を効果的に使い、 大きなクライマックスを築いていました。 この編曲はオーケストラ用とはいえ、響きは室内楽的でかなり小編成のようです。 全体にチェンバロやエレキギター、エレキベース、合唱までも加わったポップス調の極めてユニークな編曲でした。ラヴェル版の影響も感じられず、曲によって口笛まで加わるのが後のシンセサイザー用の編曲を予感させ、富田勲の個性が充分発揮された面白い作品だと思います。
(2002.03.03)
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