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今回はピアノ協奏曲として編曲された2種の「展覧会の絵」です。 プロのピアニストの目から見るとムソルグスキーのピアノ曲は、あまりにもプリミティヴすぎていて、なにかしら工夫を加えたくなるのだそうです。この2つの編曲もそのような意図から作曲されたかのようです。 「レナルド編曲版」 ローレンス・レナルドはイギリスの指揮者兼作曲家で、ハレ管やBBCノーザン管の副指揮者をつとめ、何曲かのオーケストラ曲や映画音楽のための作品があるそうです。 「展覧会の絵」の編曲は1977年完成。ピアノ協奏曲としてスタイルを持つ完全全曲編曲。ラヴェル版にそのままピアノパートをかぶせたような編曲です。ロシア風なところはほとんどなく、むしろタイトルのイメージをそのまま音に置き換えたといった描写音楽風の趣でした。 冒頭のプロムナードはエコーを効かせたホルンとトランペットとベルが使用されたオケだけの編曲で、これが伝統的なピアノ協奏曲の序奏の役割を果し、続く他の曲は全てピアノ中心で、オケは常に伴奏に終始しています。2番めのプロムナードはピアノのみで、ほぼムソルグスキーの原典譜そのままでした。「古城」ではウィンドマシーンを使用し荒涼とした雰囲気を出しています。ウィンドマシーンは「ババヤーガ」でも使われますが、それなりに面白い効果を上げていますが、幾分マンガチックで、かえって表現自体が薄いものになっていると思います。 多くの場面で、弦楽器の単純なコード進行に乗ってピアノがオクターヴで旋律を奏でるなど、このような単純なオーケストレーションが映画音楽を聴いているような中途半端な 印象を持たせています。 録音は有名作曲家のマイナーな曲や編曲ものを数多く録音している、 ジェフリー・サイモン指揮のフィルハーモニア管のCDが出ています。 (CALA CACD1012 1992録音) ピアノはTamas Ungar。演奏録音ともに悪くはありませんが、 この編曲のお気軽路線には私はあまり楽しめませんでした。 「ナウモフ編曲版」 ブルガリア生まれのピアニスト、作曲家のエミール・ナウモフ(1962〜)の「展覧会の絵」編曲は1994年の完成です。ナウモフにはフォーレのレクイエムや「火の鳥」全曲のピアノ版など比較的多くの編曲作品があります。 こちらの編曲もピアノ協奏曲のスタイルですが、かなり過激な編曲で、レナード版がピアノ中心のシューマンやショパンのピアノ協奏曲のような、あくまでも古典的なピアノ協奏曲のスタイルで編曲されていたのに対し、こちらはピアノとオーケストラは全く対等で 両者が曲の随所でぶつかり合うスリリングな編曲でした。 今までの編曲はムソルグスキーの音譜を忠実にオケ編曲をするといったところなのですが、 ナウモフ版はムソルグスキーの「展覧会の絵」による自由なパラフレースといった趣で、 曲によっては、ほとんど別の曲のように変容してしまっている曲もあります。 また曲の途中や最後にカデンツァが挿入されているために、演奏時間も四〇分を超えるものになっていました。 冒頭はいきなりピアノのカデンツァで始まります。始めは別の曲かと思うほどですが、 次第にプロムナード主題の断片が現れ、おもむろにプロムナード主題がトランペットソロで嚠喨と出てくるところなど、なかなか効果的でした。 「古城」はアルトフルートを中心とした木管楽器、「ヴィドロ」冒頭の主題のファゴットユニゾンなどなかなか凝った編曲です。傑作は「卵の殻を被った雛の踊り」で、ほとんど違う曲になっていますが、ピアノと木管を実に効果的に使った編曲で、最も印象に残りました。 また冒頭のプロムナードのトランペットソロ、5番目のプロムナードの省略、「サムエルゴールデンベルクとシュミイレ」の終結部のドレドシなど、ラヴェル版の影響は強いですが、曲の随所でぶつかりあう不協和音、多くの編曲が大きな効果を狙う「キエフの大門」をヴァイオリンのみで始めるなど、随所に独創的なアイディアが盛りこまれた優れた編曲だと思います。 録音はナウモフ自演盤があります。 I.ブラシノウ指揮ベルリンドイツ響、ピアノ;エミール・ナウモフ (ALCAR ALC51062)
(2002.02.28)
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