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「展覧会の絵」を聴く12・・・ゴルチャコフ編曲版
「セルゲイ・ゴルチャコフ(1905年〜1976年)編曲」

モスクワ音楽院作曲科教授のゴルチャコフの編曲は、1954年に編曲されました。
ピアノ原典版をベースにした初のオケ編曲で、ピアノ譜にできるだけ忠実であろうとした全曲編曲です。編成は3管編成が基本ですが、ソプラノサックスとチューバが2本、そしてシロフォンやウッドブロックをはじめとする打楽器が数多く使われています。

以下はゴルチャコフ版の特徴的な部分です。
「プロムナード」…冒頭はラヴェルと同じくトランペットで始まりますが、こちらは
         3本のユニゾン。
「グノーム」…弦楽器+トランペットのペアで動く旋律線が印象的、ポコポコ鳴るウッドブ   
       ウッドブロックは何を意味するのだろうか?
「プロムナード」…チェロによるワルツ風の美しい編曲、チャイコフスキー「悲愴」の 
         第2楽章に共通する世界。
「古城」…ここでのソロはミュートをつけたトランペット続いてソプラノサックスも加わ 
     る。
「卵の殻をつけた雛鳥のバレエ」…終結部のコケーッコはラヴェル版と同じく1回。
「ヴィドロ」…ピアノ原典版と同じくフォルティシモで始まる。こちらはチューバでなくホルン4本のユニゾン。
「サムエルゴールデンベルクとシュミイレ」…弦楽器とソプラノサックスの対話、終結部はドレシシ。
「カタコンブ」…チューバ2本にドラやティンパニ、弦楽器全てが加わったおどろおどろしい世界。
「ババヤーガの小屋」…弦のピチカートに被るシロフォンの硬質な響きが印象的。
「キエフの大門」…弦楽器中心で金管楽器を極力抑えようとする意図が見える。
コラールの1回めクラリネット2回目はトランペットとトロンボーン、後半はピアノ譜の3連譜をかなり忠実に弦楽器が再現する。

ラヴェルの影響はやはり大きいですが、弦楽器中心の編曲でトシュマロフ版により近い印象です。管楽器の使用方法も多彩で、ソプラノサックスやミュートを付けたトランペットの使用が目立ちました。

ゴルチャコフ版の録音は最近になって何種か出ています。今回は以下の4種類の演奏を聴いてみました。



<クルト・マズア(1927〜)>
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とニューヨークフィルの常任指揮者を務めた旧東ドイツの指揮者クルト・マズアは、ゴルチャコフ版の紹介に積極的で、ロンドンフィルとのCD録音とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のライヴのDVDが出ています。来日して読売響を振ってゴルチャコフ版で演奏したこともありました。

・ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(1993 9/15.16 ライヴ映像)
ゴルチャコフ版の全貌を知るには格好の映像。マズアの指揮も手慣れたもの。
ゲヴァントハウス管も気合充分で、「ババヤーガの小屋」から「キエフの大門」にかけては大きな盛り上がりを見せていました。カメラワークも良く、この編曲で活躍するチェロとベースの動きが実に良くわかりました。 

・ ロンドンフィル
(1986年 スタジオ録音)
 演奏のアプローチはゲヴァントハウス版とほぼ同じ。数年前に渋谷タワーのバーゲンでこのCDを買った時、ジャケット表示にゴルチャコフ版の表示がなく、冒頭がトランペットで始まるためにラヴェル版だと思い聴き始めたら、次の「グノーム」のウッドブロックでたまげて初めてラヴェル版でないことに気がついた思い出のCD。

<カール・アントン・リッケンバッハー(1940〜)>
・クラコフ放送交響楽団 語り;ピーター・ユスティノフ

スイスの中堅指揮者でブーレーズの弟子リッケンバッハーの演奏は、名優ピーター・ユスティノフの語りが入った異色の演奏。ロシア的な色彩を排したカロリーの低いすっきりとした演奏で、マズアとは全く印象が異なります。打楽器も極力抑え気味で金管楽器の咆哮もない知的な演奏といえます。この編曲の特徴であるトランペットのミュートがマズア盤と異なるため、古城ではエキゾティックな雰囲気を漂わせていました。

<ユッカペッカ・サラステ(1956〜)>
・トロント交響楽団(1996年 スタジオ録音)

フィンランドの指揮者ユッカ・ペッカ=サラステの展覧会の絵は、ゴルチャコフ版とフンテク版混合のいわばハイブリッドのサラステ版。16曲中8曲ずつゴルチャコフ版とフンテク版を使用、冒頭のプロムナードをはじめ前半はフンテク版中心、後半はゴルチャコフ版中心でした。演奏は悪くありませんが、両版ともロシア的な色合いを強調した編曲ですが、サラステは民族色とかローカルな演奏をあえて避けているかのようです。
しかし二つの編曲を使用したことで、主張の一貫性が見られず中途半端な印象でした。
(2002.02.24)
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