その9 / 初演者ムラヴィンスキーを聴く(3)
1978年ウィーンライヴとムラヴィンスキー晩年の84年ライヴ
1978年、ムラヴィンスキーとレニングラードフィルはウィーン音楽祭に招かれチャイコフスキーやショスタコーヴィッチ、ブラームスを中心としたプログラムで演奏会を持ち、そのいくつかは録音されてLP4枚組として発売されました。
発売された当時は、なにせ久しぶりのムラヴィンスキーの新録音ということで大いに期待されたのですが、実際に聴いてみると、ホールの残響の多さが過度に強調され、妙にふやけた録音だったのでがっかりした記憶があります。
LPの音はそのような状態なのですが、AUDIOPHILレーベルから1983年録音として発売されているCDが実はこの78年録音であることが確認できたので、こちらを聴いてみました。
このCDはLPよりもよりもすっきりとした音で、幾分高音が強調されていますが、細部は正規盤よりも明快です。
この演奏はムラヴィンスキーの数あるこの曲の演奏の中で、最も完成度の高いものであると思います。基本的には73年録音と大きな違いはないのですが、スコアに書かれているダイナミックスの幅、たとえば同じフォルテにおいても何段階かの描き分けとテンポの緩急の変化との連動が実に巧妙。
特徴的なのは第3楽章のテンポが早いことで、今のところ私が聴いたムラヴィンスキーの録音の中では最速でした。これは残響の長いウイーンのホールに対応した解釈なのかもしれません。第2楽章ではソロヴァイオリンのグリッサンドを無視、(これは73年でも同じ)第3楽章クライマックス後の緊張感に満ちた消え入るようなピアニシモにはとりわけ印象に残りました。

1984年ライヴ
ムラヴィンスキー再晩年の録音です。ここに来て再びムラヴィンスキーの解釈に変化が現われました。
70年代の録音で無視された第2楽章のソロヴァイオリンのグリッサンドは復活、第3楽章のテンポもぐっと遅くなりました。第4楽章のコーダに突入する直前の猛烈なリテヌートとコーダの遅さには聴いていてハッとさせられます。
今までのムラヴィンスキーの録音には張り詰めた厳しさの中に高潔さが感じられたのですが、ここではさらに諦めにも似た詠嘆の歌が曲全体を支配していました。
レニングラードフィルのアンサンブルは70年代ほどの完成度がなく、随所で乱れる個所もありますが、ムラヴィンスキーのこの曲における解釈の到達点ともいえる演奏だと思います。

(2001.3.17)

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