その4 / アメリカで活躍した指揮者たち(その2)
レナード・バーンスタイン

20世紀後半の指揮者界を人気、実力ともにカラヤンと二分したバーンスタイン(1918〜1990)。
作曲家としても一流で、3曲の交響曲をはじめとした多くのすぐれた作品を残し、ミュージカルの分野でも、「ウエストサイドストーリー」などの不朽の名作を残しています。

今回聴いたのは以下の6点です。
実はショスタコーヴィッチの追悼として第三楽章のみが演奏された1975年のロンドン響
とのFMエアチェックテープも手元にあるのですが、オープンリールテープのため聴く
ことが出来ませんでした。(^^;
 

1 1959年 ニューヨークフィル スタジオ録音
2 1967年 ロンドン交響楽団 第3楽章の一部、映像リハーサル
3 1979年5月28日 ウィーンフィル ?疑問盤
4 1979年5月29日 ウィーンフィル ウィーン芸術週間ライヴ
5 1979年7月3日、4日 ニューヨークフィル 東京文化会館ライヴ、映像もあり。
6 1979年7月23日 ボストン交響楽団 タングルウッドでのライヴ

この中で正規発売の録音はニューヨークフィルの録音と映像、そして「偉大な指揮者たち」というドキュメンタリーに収録されているロンドン響との演奏で、ウィーンフィルの5月29日演奏は当時のFMエアチェックテープ、5月28日演奏とボストン響の録音は海賊盤です。なお5月29日録音は海賊盤CDも出ています。

かつてムラヴィンスキー盤と並んでこの曲の代表盤とよばれていた1959年ニューヨークフィルとの録音。同じ年のバーンスタイン&ニューヨークフィルのモスクワ演奏旅行時に、この曲の演奏終了後、作曲者が感激して壇上に上がったという有名なエピソードがあります。この盤のLP発売時にはこの時の写真がジャケットに使われていました。

演奏は第1楽章の深く沈潜していくテンポ感、第三楽章の悲しみの表現は実に見事、第四楽章は早いテンポで始まるロジンスキーと似たテンポ設定ながらも、決して表面的に陥らない演奏です。ただ、後の録音に比べるとバーンスタインのマーラー録音にも通じる幾分我を忘れた絶叫型であるのも事実。
ベートーヴェンの「運命」に似た苦悩から歓喜へといったパターン設定がストレートに出すぎているような気がします。

同じオケの東京ライヴは、コンサートの模様をそのまま収録したものではなく、二日間のコンサート終了後、同じ会場でもう一度全曲演奏を行って細部を差し替えたものです。したがってライヴにありがちな細かなミスは感じません。
今回は同じ演奏の映像を聴いてみました。
ここでの映像の視覚的な効果は大きく1959年盤の印象を大きく上回ります。この演奏を好む人も多く、実際優れた演奏だと思いますが、第四楽章の楽天的な雰囲気はこの曲の弱点をあばいてしまっているようで、どうも私の好みには合わないようです。

ボストン響との録音は、おそらくボストン郊外のタングルウッド音楽祭での野外コンサートのライヴ収録です。タングルウッド音楽祭のライヴには、雷鳴や雨音が入っている盤があったりします。この演奏でも小鳥のさえずりが盛大に聞こえます。
野外コンサートとはいえ客席の大部分は屋根が被っているため、細部の明瞭度は欠きますが会場の響きはそれほど悪くありません。

演奏はボストン響の幾分柔らかで暖かな響きを生かした、落ち着いた印象の演奏です。
第一楽章はかなり遅いテンポで始まります。じっくりと悲しみに満ちた表現は、6種の録音で際立っています。しかし第二楽章ではこの遅いテンポが災いして、幾分もたれ気味、得意の第三楽章は全ての録音でもっとも見事で、ひしひしと悲壮感に満ちた歌が押し寄せます。フィナーレ 弱音部での美しさも出色。フィナーレのコーダは6種の中では最も遅い演奏。他のバーンスタインの録音とは幾分異なった趣の演奏でした。

ウィーンフィルとの5月29日録音は、猛者揃いのウィーンフィルとバーンスタインの個性が火花を散らしてぶつかり合ったライヴならではの白熱した演奏です。
フィナーレのコーダでテインパニが一小節早く飛び出してしまいますが、これが逆にスリリングな効果を上げています。

ウィーンフィルの5月28日録音は問題があります。
これはANFという会社から出ていたCDで、1枚480円の駅売りCDですが、とてもバーンスタインの演奏とは思えない演奏です。
金管ヴィヴラートたっぷりのオケはあきらかにロシア系のもの、演奏のテンポ設定も、他のバーンスタイン録音とは似ても似つかぬムラヴィンスキー型。
ただ演奏そのものはなかなかの名演奏です。

演奏の実体はスヴェトラーノフとの説もありますが、私はムラヴィンスキーとともにレニングラードフィルの指揮者だった名指揮者アルヴィド・ヤンソンス(マリス・ヤンソンスの父)の演奏に似ているような気がします。

ロンドン響との数分間のリハーサルはあまりに短すぎて、演奏の印象を述べることはとても出来ませんが、ニューヨークフィルとの映像よりも厳しさが感じられました。
ショスタコーヴィッチ追悼の1975年の演奏も、緊張感に満ちた素晴らしいものだったように記憶しています。

(2001.1.12)

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