その3 / アメリカで活躍した指揮者たち(その1)
ロジンスキーとストコフスキー

お待たせしました。今回から各々の演奏について、コメントしていきます。
今回は60年代までアメリカで活躍し、ショスタコの5番とも縁の深い二人の巨匠の演奏です。

アルトゥール・ロジンスキー(1894〜1958)は、ユーゴスラビアで生まれたユダヤ系の指揮者。ストコフスキーの招きでフィラデルフィア管弦楽団の副指揮者を勤めた後、ロスアンジェルスフィルやシカゴ響、クリーヴランド響、ニューヨークフィルの指揮者を勤めました。オーケストラビルダーとしての腕は一流で、それぞれのオーケストラを世界屈指の一流楽団に鍛えています。トスカニーニのために創設されたNBC交響楽団のトレーニングにも一役買っていた程です。が、練習は厳格を極め、喧嘩っ早い性格のため、オーケストラのメンバーからは嫌われ、晩年はどこのオケからもお呼びがかからなくなってしまいました。

ロジンスキーはこの曲のソ連国外での放送初演を行い、楽譜出版後の初録音も果しています。 録音は、クリーヴランド管との1942年録音とイギリスのロイヤルフィルとの1955年録音があります。 この2種の録音を聴いてみました。

出版後初録音のクリーヴランド管との音盤は、非常に気合の入った演奏ですが、思いのほか叙情的で、第1楽章や第3楽章などはなかなか聴かせます。
一方で楽譜にないアクセントの強調や第3楽章でいきなりメゾフォルテで開始するところ、第4楽章での大胆なカットなど、既に独自の路線を築いています。
ただ当時のクリーヴランド管は、セルが常任となった時代と比べて聴き劣りがします。
特にトランペットは弱体、弦も早いパッセージで幾分不揃いなところもあります。

ロイヤルフィルとの再録音は、モノラルながら録音は優秀、ロジンスキーも生前この録音が気に入っていたというほどで、豪快な迫力に満ちた名演です。旧盤に比べるとテンポの動きもごく自然で、第2楽章の絶妙の間など、おそらくこの楽章は他の指揮者の演奏と比べても最高の出来です。
また全楽章において、テインパニの迫力が凄まじく、怒れる指揮者ロジンスキーの面目躍如たる演奏です。
第4楽章のテンポは、両盤とも異常に早いテンポで始まります。しだいに速度を緩めては加速するというパターンを繰り返し、盛り上がっていきますがテンポ設定に矛盾が生じる関係からでしょうか、この盤もコーダの直前でカットをしています。これは非常に惜しいですね。
この第4楽章のテンポ設定はバーンスタイン盤と非常に似ています。

レオポルド・ストコフスキー(1882〜1977)は、ポーランド系イギリスで生まれの名指揮者。 フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督として、このオケを世界最高水準に引き上げました。映画や録音に非常に熱心で、「オーケストラの少女」やデイズニーの「ファンタジア」にも出演しています。
オーケストラの配置や録音に対する研究も熱心で、現在の一般的な近代オーケストラ配置はストコフスキーが考案したものです。95才まで現役で多くの録音を残しました。

ストコフスキーのショスタコーヴィッチの第5番録音は

・フィラデルフィア管弦楽団・・1939年録音(ソ連国外初録音)
・ニューヨークスタジアム交響楽団(ニューヨークフィルの変名)・・・1958年録音
・ロンドン交響楽団・・・・・1964年11月 ライヴ録音の3種があります。

残念ながら第1回録音は未聴です。後の2種の録音を聴いてみました。
ストコスフキーの多くの録音は、自ら楽譜を書き換えたり、楽器編成も配置も大胆に変えた演奏が珍しくないのですが、ニューヨークフィルとの録音は非常にオーソドックスで、オケの充実した響きとロマンチックさと雄大さを兼ね備えた名演奏です。
ストコフスキーは多くの現代曲の初演を行っており、その際は楽譜に対して忠実な演奏をおこなったそうです。
この第2回めの録音時には、まだ曲のあるがままの姿を伝えたい、という意思が強かったのでしょうか。

しかしロンドン響のライヴは、やりたい放題の演奏となりました。(--;
第3楽章にホルンを加えたり第4楽章コーダでのドラの連打など、細部に大胆な改変があります。
ただ聴いていて面白いのは確かで、終演後の客席も大いに湧いています。また特筆すべきはロンドン響の管楽器の優秀さ、この当時はホルンのタックウエルやクラリネットのブライマーなどの名手が在籍していて、ブリティッシュブラスの輝かしい響き、第2楽章のソプラノクラリネットなどは唖然とするうまさです。

(2001.1.3)

Back Top Next