その23 / 「プレヴィン、マゼールとマッケラス」
現在70代の円熟した芸風を見せている三人のタコ5です。

アンドレ・プレヴィン(1929〜)

ベルリン生まれ、ベルリンとパリで音楽を学び、10才でアメリカに渡りアメリカ国籍となる。 MGM映画の音楽監督、作曲家、ジャズピアニストとしても数多くの名盤を残しています。 ロンドン響、ピッツバーグ響などの音楽監督を歴任、特にウィーンフィルとは 相性が良く優れた演奏を多く残しています。 録音は65年のロンドン響、75年のシカゴ響、そしてBBCのテレビ番組のために 演奏されたロイヤルフィルとの映像があります。 演奏はいずれも苦悩から歓喜へ到達する、というネオ・ベートーヴェンスタイルに基づいて、第4楽章を歓喜の爆発として位置づけた、かつてのこの曲のイメージに近い典型的な演奏です。 ロンドン響との録音は、プレヴィンがクラシックの指揮者として歩み始めた最初期の録音。 若々しさと爽快さを兼ね備えた演奏で、ロンドン響の輝かしさとともに楽しめる演奏です。 小さな山場を曲の至るところに設定した聞かせ上手な演奏で、快速なテンポの第4楽章には、楽譜にないタムタムの追加やシンバルのトレモロなど、いくつかプレヴイン自身の手が入っています。この曲に深刻さを求めない人向きの痛快な演奏。演奏の完成度としてはシカゴ響との再録音が上だと思いますが、若々しさの後退した再録音は、今となっては中途半端な印象です。ロイヤルフィルとの映像はBBC放送制作「交響曲の歴史」というシリーズものの最終回にプレヴイン自身の解説付きで演奏されました。演奏の本質は変わらないものの、プレヴンの鮮やかな棒さばきが興味深い演奏でした。にこやかに演奏している第4楽章は、まさに歓喜の爆発、といった演奏。

ロリン・マゼール(1930〜)

フランスに生まれるがすぐにアメリカへ移住、9才でニューヨークフィルを振るいわゆる天才少年。 ウィーン国立歌劇場の総監督を務めるなど数多くの主要なポストを歴任しています。同世代のアバド、小沢征爾と並んで世界指揮者界の中心的存在。録音ではこれといった駄演がない変わりに、実演での個性的な閃きは多少薄れています。 マゼールにはクリーヴランド管音楽監督時代のタコ5の録音があります。(81年録音) 81年といえば、ヴォルコフの「証言」が幅を利かせ始めていた時期ですが、マゼールの演奏にはその影響は微塵も感じられません、プレヴィンと同じ傾向の典型的な楽天的な演奏。 オケもうまいし録音も良し、才人マゼールらしいソツなくクールにまとめた欠点を見つけるのが難しい演奏です。しかしこの曲にはもう少しマゼールらしい大胆な表現と熱さと深さを求めたいと思います。

チャールズ・マッケラス(1925〜)

アメリカ生まれ、両親はオーストラリア人。 シドニー響の首席オーボエ奏者を経て、プラハ音楽院で名指揮者ターリヒに学ぶ。 イギリスのサドラーズ・ウエルズ・オペラの音楽監督、シドニー響の首席指揮者など、主にオペラハウスでキャリアを積みました。録音は古くから比較的数多くありますが、初期の録音では、当時の時代様式に基づいた「メサイア」や50人のオーボエ奏者を集めた「王宮の花火の音楽」などのヘンデルの名演が印象に残っています。私はウィーン国立歌劇場のバレエで「弦楽セレナーデ」(チャイコフスキー)、ヒンデミットの「4つの気質」、ファリアの「三角帽子」をマッケラスの指揮で聴いたことがあります。バレーは全く印象に残っていませんが、マッケラスの鮮やかな音楽作りとウィーンの弦楽器を最大限に生かしたチャイコフスキーの美しさは未だに忘れられません。 70年代後半にはヤナーチェクのオペラの数々を録音して注目を集めました。 タコ5の録音は千円前後で大量に売られている鮮明な録音が売り物のロイヤルフィルハーモニックコレクションの1枚があります。深刻さや深さはありませんが、曲想が変わる部分の微妙なタメと、盛り上がりでの烈しさを見せる部分の対比も見事な老練な演奏です。幾分管楽器強調型の録音ですが、ロイヤルフィルの輝かしいブラスも心地よい早めのテンポの快演。

(2001.5.28)

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