その19 / 東欧の指揮者たち(ルーマニアとハンガリー編)
シルヴェストリとケルテス
東欧の指揮者たち第3回はルーマニアの爆演指揮者シルヴェストリと 将来を嘱望されながら若くして急逝してしまったハンガリーの指揮者ケルテスの演奏です。

コンスタンチン・シルヴェストリ(1913〜1969)

ブカレスト生まれ、10才でピアニストデビュー、17才でブカレスト放送響を指揮する など、いわば早熟の天才肌の指揮者。1969年からイギリスのボーンマス響の首席指揮者を務めました。 シルヴェストリの音楽は、その場のインスピレーションにまかせた個性的な解釈。 壷にはまった時は素晴らしい演奏をする反面、1歩誤ると破滅的な演奏に陥る危険もありました。 N響に来演した際も団員の中に肯定派と否定派に評価が分かれたと言われています。 最近その八方破れの個性が人気を呼び、CDで次々に復活。 中でも「新世界から」やフランクの交響曲はその個性的な解釈が成功した代表的なものです。 ショスタコーヴィッチの第5番はステレオ初期にウィーンフィルを振った録音があります。 第1楽章はおそらくこの曲の演奏中もっとも遅い演奏で、反面フィナーレ冒頭は最も早い演奏という超個性的なもの。 伝統あるウィーンフィルをここまで自分のペースに巻き込む手腕はさすがですが、この効果を狙いすぎた恣意的な解釈は好悪の分かれるところ、テンポの動きが急な第4楽章などは軽薄な印象も受けます。 これはウィーンフィルとしても初のショスタコーヴィッチ録音ではないでしょうか、 第1楽章でヴァイオリン奏者が飛び出したり、第3楽章で弦楽器群にアンサンブルの乱れが生じ、バラけそうになる所があります。 第2楽章のヴァイオリンソロがウインナワルツ風になったり、ホルンがミュートを使わずゲシュトップを用いているのは、ウィーンフィルならでは。

イシュトヴァン・ケルテス(1929〜1973) ハンガリーは多くの名指揮者を輩出している国です。 すでに紹介したオーマンディーやショルティに続く世代の指揮者の中では特に傑出した存在のケルテスは、若くしてウィーンフィルを振ってブラームスとシューベルトの交響曲全集やモーツァルトの交響曲集などの優れた録音を残しましたが、1973年テルアヴィブで遊泳中に水死してしまいました。 ロンドン響の首席指揮者も務め、セル亡き後のクリーヴランド管の首席指揮者の ポストもケルテスが最有力だったと言われています。 ケルテスは珍しくもスイス・ロマンド管を振って、60年代初めにショスタコーヴィッチの第5番の録音を残しました。 この演奏を聴いた当初は、オケの明るい響きとケルテスのキビキビとした音楽作りが大層新鮮に感じられたのですが、数多くの録音に接した後に聴きなおしてみると、若さゆえの未熟さが気になりました。 演奏全体は早いテンポで進行し、オケのラテン的な明るい響きのため清潔さと同時に非常な軽さを感じます。 素直で無理のないすっきりした演奏なのですが、この曲にはもう少し屈折した一面もあるのではないでしょうか、いわばパンチに不足した演奏。アンセルメ時代のスイスロマンド管の技量もかなり物足りない。バソンの明るい響き、シンバルも所々で吊り下げシンバルを用いているようで、ラテン的でユニークな解釈の演奏でした。

(2001.5.11)

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