その18 / 東欧の指揮者たち(チェコとスロヴァキア編)
アンチェルとスロヴァーク
東欧の指揮者たち第2回はチェコとスロヴァキアの二人の指揮者です。

カレル・アンチェル(1908〜1973)

南ボヘミアのトウプカビ生まれ、指揮をターリヒ、シェルヘンに師事、1933年 プラハ響の音楽監督に就任。やがてナチス非協力者として追放、しばらく山中で木こりとしての生活を送っていたが、逮捕され家族共々アウシュヴィッツ送られ父母と妻子は虐殺された。 1947年からプラハ放送響、1950年からチェコフィルの常任指揮者となり 戦争の影響で壊滅状態だったチェコフィルを再建し、世界屈指のオーケストラに育てています。 その後1969年旧ソ連軍のプラハ侵攻に抗議してカナダに亡命、小沢征爾の後任としてトロント響の常任指揮者となりました。 悲劇的な生涯を送ったアンチェルですが、その音楽は高潔誠実、多くの人に慕われたその人格そのもののスメタナやドヴォルザークの演奏は、いずれも聴いていて心を洗われるような名演です。 ショスタコーヴィッチは1,5,7の交響曲と祝典序曲(すごい名演!)の録音があります。 オケはいずれもチェコフィル。 アンチェルのショスタコの5番は、感傷を排した早めのテンポの知的な名演奏です。 モーツァルトの第40番の交響曲にも似た、疾走する第1楽章など見事なもの。 随所に見られる全盛期チェコフィルの木管群やホルンの艶やかな独特の響きも素晴らしい演奏でした。

ラディスラフ・スロヴァーク(1919〜)

スロヴァキアのブラチスラヴァ生まれ、ターリヒ、ムラヴィンスキーに師事、 ムラヴィンスキーのもとで、レニングラードフィルの副指揮者、1961年からスロヴァキアフィルの首席指揮者。 スロヴァークは穏健で地味な指揮者といったところで、個性にも欠けますがドヴォルザークやヤナーチェクといった作曲家には味のある演奏を聴かせました。
長年ムラヴィンスキーの影響化にあったこともあり、ショスタコーヴィッチはNAXOSに交響曲全集の録音を残しています。 オケはスロヴァキアフィル。 演奏は遅いテンポの着実なものですが、古いロシアタイプの解釈とスキっとした昨今のモダン的な解釈が共存した面白い演奏でした。 随所に楽譜を改変しているところがあるようで、第2楽章のホルンのミュート部分をミュートなしにしたり、第4楽章の再現部の ハープの1音をラからファに変えたりしています。(ここはハープ奏者が間違えたのかも)
ただ気になったのはスロヴァキアフィル本拠地のブラチスラヴァホールの異様なまでの残響の長さで、ある特定の音域が強調されているような印象を受けました。 オケの非力さが残響で救われている感じですが、演奏そのものはさほど悪くないベテランの味。

(2001.5.9)

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