「山田一雄(1921〜1991)」
東京生まれ、ローゼンストックに師事、1942年新響(N響)を指揮してデビュー。
山田耕筰、近衛秀麿に継ぐ世代の日本人指揮者として戦中戦後を通じて活躍し、「春の祭典」やマーラーの交響曲第8番など数多くの大作の日本初演を行っています。
同世代の朝比奈隆がベートーヴェンやブルックナーの交響曲全集など数多くの録音を残したのに比べ、山田一雄の録音は、教材目的の録音や小品、オリバドッティやモリセイなどの昔懐かしい吹奏楽の録音があったりといった具合でとりとめがなく、まとまった大作の録音が少ないのが残念だと思います。晩年になりポニーキャニオンやファンダンゴといったレーベルがライヴを中心にようやく本格的な録音を始めましたが、いささか手遅れの感がありました。
第九については以下の6種類の録音があります。
- 日本交響楽団、合唱団(日本語歌唱) 1943年 第4楽章のみ スタジオ録音
- フィルハーモニック響(オケ実体不明)1960年 第4楽章のみ スタジオ録音
- 新星日本響、千葉第九を歌う合唱団 1977年(プライヴェート盤) ライヴ録音
- 京都市交響楽団、京都市立芸大合唱団 1983年 ライヴ録音
- 新星日響 新都民合唱団 1990年 ライヴ録音
- 札幌交響楽団、札幌放送合唱団 1991年 ライヴ録音
1943年録音は日本人指揮者としての第九初録音。
最後の札幌響との録音は、ライヴによるベートーヴェン交響曲全集として2年がかりで計画されたプロジェクトでしたが、山田一雄の急逝によって第1番が録音できず惜しくも未完となってしまいました。
他に玉川大、東北大、慶応ワグネルソサエティを振った録音も存在するようです。
今回は1983年と1990年の録音を聴いてみました。
二つの演奏に7年の隔たりがありますが、聞いた印象はかなり異なりました。
演奏時間は、
I II III IV
83年 17'04" 12'51" 15'56" 26'39"
90年 17'41" 13'01" 15'39" 26'43"
90年盤の方が、特に前半で遅くじっくりと練れた印象。一方の83年盤は劇的な変化に富んだ演奏と言えるのかもしれません。最晩年の札響とのライヴではどのような変化を見せているのか興味津々で、是非聴いて見たいのですがこちらは未だ聴く機会を得ていません。
・京都市交響楽団、京都市立芸大合唱団、ベリヨースカ合唱団
S)秋山恵美子 A)荒道子
T)田口興輔 Bs)勝部太
(1983年 12月21日 京都会館第1ホール ライヴ録音)
テンポを動かし、曲想の変わり目の間も大きく取った劇的な演奏。
特に第4楽章では大きなルバートをかけ長いパウゼをとってから、低音弦による歓喜の主題を登場させるなど、即興的なテンポの揺れを見せます。この終楽章は勢いもあり、演奏者も力を出し切って爽快な演奏となりました。
ただ前半はまだ本調子が出ていない様子で、重たく引きずるような第1楽章など劇的な要素は見せますが、勢いに欠ける印象です。第2楽章も良く言えば穏やか、しかしリズムの冴えがなく鈍重に感じました。
第3楽章はこの美しさの中に永久に浸っていたい演奏者の思いが伝わってくるような極めてゆっくりとした演奏。このテンポの中で停滞感を感じさせないのはさすがに老練。
独唱者はいずれも力のある人たちですが、いささか興奮気味で暴走してしまっている感がありました。大編成の合唱は堅実な歌唱でなかなかの迫力です。
第4楽章のvor Gott!は、オケを早めに沈黙させ、合唱のみ長いフェルマータ。
マーチ部分ではシンバルを極端に強打させ、祝典的な雰囲気を盛り上げていました。
・新星日本交響楽団、新都民合唱団
S)大倉由紀枝 A)西明美
T)饗場知昭 Bs)大島幾雄
(1990年 2月11日 東京文化会館 ライヴ録音)
京都盤よりもさらにテンポを落とし、音楽の横の流れを重視した演奏です。
83年盤が前半の2つの楽章がいまひとつの出来でしたが、こちらはバランスの良いスケールの大きなより練れた演奏となりました。熱気の中に清清しさと気品の感じられる優れた演奏だと思います。オケのアンサンブルに多少の甘さがあるのは、ライヴのためでしょうか、ただし第4楽章については83年盤の劇的な解釈の方に魅力を感じます。
トップ歌手を揃えた独唱者陣は素晴らしい出来ですが、合唱が興奮気味でいかにもアマチュアっぽい歌唱、これは大幅減点。
なお第2楽章は両盤とも第2主題にホルンを追加していましたが、90年盤は第4楽章の終盤のティンパニにかなりの加筆があるようです。
(2003.12.02) |