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「第九を聴く」44 日本の指揮者2・・・朝比奈隆
「朝比奈隆(1908〜2001)」
ブルックナーと並び朝比奈隆の重要なレパートリーだったベートーヴェンは、7つの交響曲全集があります。これはカラヤンを抜いて世界最多。中でも年末を中心に演奏し続けた第九は演奏した回数ではおそらく世界一ではないでしょうか。残された録音も映像を含めて実に14種類があります。全てライヴ録音。

・大阪フィル        1972年*
・大阪フィル        1973年  プライヴェート盤
・大阪フィル        1976年  プライヴェート盤
・大阪フィル        1977年*
・ジュネス・ミュジカル管  1981年  プライヴェート盤
・大阪フィル        1985年*
・新日本フィル       1988年12月14日  映像
・新日本フィル       1988年12月15日*
・大阪フィル        1991年*
・新日本フィル       1992年
・倉敷祝祭管        1996年  プライヴェート盤
・大阪フィル        1997年*
・大阪フィル        2000年12月29日
・大阪フィル        2000年12月30日*

*は全集中の録音です。盤になったのはこの14種類ですが、FMやテレビでも放送されている他の演奏もあるので、プライヴェート盤がまだあるかもしれません。

今回は72年の最初の録音、88年の新日フィルとの映像、1991年12月29日の全集録音のうちNHKで同時収録された映像、以上3種類を聴いて見ました。

・新日本フィルハーモニー交響楽団、晋友会合唱団
S)豊田喜代美、A)秋葉京子、
T)林誠、   Bs)高橋啓三
(1989年12月14日 サントリーホール  ライヴ映像)

88年から89年までの新日本フィルとのベートーヴェンチクルス中の1枚。
この時は、録音と同時に映像も収録され、CDとLDで発売されました。
なおCDの全集は第九のみ翌15日の演奏が収録されています。

朝比奈隆の実演を聴いて感じたことですが、あの独特の雰囲気は、なかなか録音だけでは、伝わらないのではないかと思うことがあります。
実際生で聞いたいくつかの演奏は、どれも感銘深いものだったのにもかかわらず、後日FMで放送されたの同一の演奏を聴いてみると、荒さだけが目立ち、まるで別物としか思えないことがありました。

しかし今回聴いた新日本フィルとの映像は、映像の威力もありますが、朝比奈隆の実演の姿をかなり忠実に伝えているように思えました。
楽譜に忠実にして遅めのインテンポでぐいぐい進めた典型的な朝比奈隆の演奏。
手兵の大阪フィルではなく新日本フィルを起用したことにより、良い意味での緊張感が生まれ、大変な名演となりました。

リズムのキレも良く、重厚でうねるような第1楽章など実に巨大な演奏です。
巌のような頑固さの中に見せる第3楽章の柔らかな表情との対比が実に印象的。
淡々とした棒の下白熱の歌唱を見せる合唱団も良く、私が聴いた朝比奈隆の第九の中ではベストの名演奏でした。


・大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー合唱団
S)井岡潤子、A)伊原直子、
T)大野徹也、   Bs)多田羅迪夫
(1991年12月29日 大阪フェスティバルホール  ライヴ映像)

5度目のベートーヴェン交響曲全集中の1枚。
こちらも映像も同時に収録されCDとDVDで出ています。
今回はNHKが収録したものを見ました。

新日本フィルとの演奏よりも随分と響きが薄い印象です。
これはオケの違いよりもホールの響きの差かもしれません。
朝比奈隆の棒は、新日本フィルよりも随分と細かい指示を出しているように思えます。
これは意外でした。
演奏は骨格の明確ないつもの朝比奈節。ソリストは新日本フィル盤よりも良いですが、緊張感がいまひとつで、他の演奏に比べていささか存在意義の薄い演奏のように思います。


・大阪フィルハーモニー交響楽団、石川県音楽文化協会合唱団、アサヒコーラス、
グリーンエコー、アイヴィコーラス、大阪メンズコーラス
S)平田恭子、A)伊原直子、
T)林誠、   Bs)高橋修一
(1972年12月28日 大阪フェスティバルホール  ライヴ録音)

朝比奈隆、最初のベートーヴェン交響曲全集中の1枚。
以後の全集は全てライヴ収録ですが、最初の全集はスタジオ録音中心で第九のみライヴ録音となりました。

これは学研による録音。当時の国内大手レコードメーカーの多くは、日本人の演奏家に注目することなく外国人演奏家の録音を中心に発売しましたが、出版社の学研は、多くの邦人演奏家を起用して教育用の数多くの録音を残しました。

指揮者だけを見ても朝比奈隆のほかに近衛秀麿、山田一雄、若杉弘、岩城宏之など、かなりの豪華メンバーで、今となってはこれが非常に貴重な記録となりました。
今回聴いたのは、当時中学生向けに学研が発売していた月刊誌「ミュージックエコー」
の附録だった第4楽章のみのEP。

こちらも楽譜を極めて忠実ですが後年の重厚さはあまり感じません。前半はキチンとまとまりすぎていますが後半に向かって勢いを増し徐々に白熱さを加えていく様はなかなかスリリングです。
大編成の合唱も美しく、若々しくも覇気のある二重フーガなどは感動的ですらあります。842小節でのポコアレグロの徐々に加速する解釈などは後年の第九では見られない独特の表現でした。
(2003.12.10)
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