back top next
「第九を聴く」40 バーンスタイン
「レナード・バーンスタイン(1918〜1990)」

カラヤンと並ぶ20世紀指揮者界の巨星バーンスタインには、ニューヨークフィルと
ウィーンフィルによる2種類のベートーヴェン交響曲全集があります。
このうち後者には映像も同時に収録されました。
これらも含め、以下の6種類の第九があります。

・ニューヨークフィル     1964年    スタジオ録音
・ウィーンフィル       1970年    ライヴ映像
・ウィーンフィル       1979年 8月 ライヴ録音(海賊盤)
・ウィーンフィル       1979年 9月 ライヴ録音
・ウィーンフィル       1979年 9月 ライヴ映像
・バイエルン放送響ほか    1989年    ライヴ映像

1989年盤は、ベルリンの壁崩壊の際の
東西のオーケストラと合唱団の混成団体による
歴史的な第九演奏会のライヴ映像です。
今回は3種類の演奏を聴いて見ました。

・ニューヨークフィルハーモニック、ジュリアード合唱団
S)アーロヨ、A)サーファティ
T)ヴァージリオ、Bs)スコット
(1964年5月18日、ニューヨーク、マンハッタンセンター スタジオ録音)

バーンスタイン一度目のベートーヴェン交響曲全集中の1枚。
後のウィーンフィルとの全集の影に隠れて、あまり話題にならない演奏ですが、
伝統的な演奏スタイルの基盤に立ちながらも、バーンスタインの強烈な個性と際立った才能を見せる優れた演奏だと思います。
オケを強引なまでに引っ張った演奏であるものの、譜面には極めて忠実で、大きな加筆はなし、自筆譜にある第4楽章歓喜の主題の第2ファゴットも、極めて控えめながら加えています。スコットによるバリトンソロのテーネはF−Gですが、同じ歌手によるトスカニーニ盤でも同様なので、バーンスタインが特に指示したわけではなさそうです。
緊張感溢れ壮大な第1楽章、早いテンポでスパッとリズムのキレが良い第2楽章、美しく歌い上げた第3楽章、つわもの揃いのニューヨークフィルのアンサンブルも、後に目立つようになったラフさを感じさせない、なかなかの出来です。
ただ第4楽章は、ソリストと合唱に幾分のバラツキがあり、前3つの楽章ほどの完成度には達していないようです。


・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
S)ギネス・ジョーンズ、A)アンナ・シュヴァルツ
T)ルネ・コロ、Bs)クルト・モル
(1979年9月2日〜4日、ウィーン、国立歌劇場 ライヴ映像)

ウィーンフィルによる交響曲全集中の演奏。CDでも出ていますが、映像もあります。
今回は映像を聴いてみました。
ニューヨークフィルの音楽監督を辞し、活動の拠点をヨーロッパに移したことで芸風が大きく変化した直後の演奏で、ウィーンフィルの伝統的なスタイルに巨匠の風格が加わり、
大変な名演となりました。
ウィーンフィルの弦楽器の美しい響きを最大限に引き出した、深い祈りに満ちた第3楽章も見事。
熱気と興奮に満ちた第4楽章は、絶好調のバーンスタインの凄さを如実に見せた出来、
渾身の力を込めたvor Gott!など気が遠くなるような長さです。
独唱者も粒揃いでアンサンブルも完璧、ルネ・コロの歌唱は出色でマーチ部分のソロは聴いていて(見ていて)感動してしまいました。合唱は小人数で奥に引っ込んだ配置のため、いくぶん弱さが感じられますが密度の濃い堅実な歌唱。
定評のある名盤の中でも第4楽章後半は、息切れ気味となって緊張感の薄れる演奏が少なくないですが、こちらは終結部が近づくにつれて次第に壮大な盛り上がりを見せていく
感動的な演奏でした。唯一の難点は映像と音に多少のズレがあること。


・バイエルン放送交響楽団、シュターツカペレ・ドレスデン団員
レニングラード・キーロフ劇場管弦楽団員、ロンドン交響楽団員
ニューヨーク・フィルハーモニック団員、パリ管弦楽団員
バイエルン放送合唱団、ベルリン放送合唱団員)、ドレスデン・フィル児童合唱団員

S)ジューン・アンダーソン(,米)、A)サラ・ウォーカー(,英)、
T)クラウス・ケーニヒ(東独)、Bs)ヤン・ヘンドリク・ロータリング(,西独)(1989年12月25日、東ベルリン、シャウシュピールハウス、ライヴ映像)

ベルリンの壁崩壊を記念して行われた記念碑的な演奏会のライヴ。当時この演奏は、全世界に生中継がされました。演奏者はバイエルン放送交響楽団と合唱団を核に各国の主要オケを配したもの。ソリストも同様に国際色豊かな顔ぶれとなりました。
この映像を見ているうちに、当時BSで生中継された映像を大きな感銘を持って聴いたことを思い出しました。しかし翌年この世を去るバーンスタイン自身は、既に重度の肺がんに犯されていて、しかも練習が充分とはいえない混成オケ。(楽章の途中で演奏者の入れ替えもあったようです。)
少年合唱まで加えた大編成の合唱は大きな広がりもあり熱気も感じられるものの、極度のスローなテンポが、バーンスタイン自身かなり無理をして振っている様子がわかり、見ていて辛いものがあります。演奏の内容よりも、歴史的なドキュメントとしての存在価値のある演奏。なおここでは、歌詞のフロイデ(歓喜)をフライハイト(自由)に変えて歌わせています。
(2003.11.17)
back top next