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これからはブライトコップ版以外の版によるいくつかの演奏を紹介します。 第九の版の問題についてはこの連載の第1回にも書きましたが、優に一冊の本になってしまうほど複雑な状況です。詳しく知りたい方は、金子健二著「こだわり派のための名曲徹底分析 ベートーヴェンの第9」(音楽之友社)を参照していただくとして、今回沼響が使用している版はベーレンライター版。 これはイギリスの音楽学者ジョナサン・デル・マールが最新の資料や音楽研究を基に、ノリントンやガーディナーなどの古楽器演奏家たちの現場での実証的な成果を反映させながら、19世紀以来使用されていた旧全集版の誤りを実践的な手法で校訂した原典版です。(2000年に全集完結)最近は古楽器奏者だけではなく、アバドやラトルなどのモダン楽器の指揮者たちも、ベーレンライター版に基づいた演奏をするようになってきました。今後ベーレンライター版がスタンダードとなりそうな勢いですが、このベーレンライター版そのものが絶対的な権威を持ったわけではなく、むしろこの版の出現によって第九の譜面に潜在していた多くの問題点が明らかになったということだと思います。 実際、ベーレンライター版の表記のあるいくつかのCDを聞いてみても、完璧にベーレンライター版のとおりに演奏している録音はひとつもありませんでした。 一方でバレンボイムのように、従来のブライドコップ版を用いて優れた内容の全集を録音する指揮者もあるという状況です。 現在は第九に限らずオーケストラの演奏スタイルが大きく変化する過渡期のようです。 このベーレンライター版で実際に記譜されている音譜やテンポ設定は、当然ながら19世紀以来使用されたブライトコップ版とは大きく異なっています。専門的な話は私の手に余りますが、とりあえず聴いていてはっきりと違いが判る部分をいくつか紹介します。 ・ 第1楽章の81小節目のフルートとオーボエ、F−BがF−D。 ・ 第2楽章503小節、515小節目のヴァイオリンがタイ ・ 第2楽章のトリオのテンポがスケルツォ部分よりも異様に速い。 ・ 第4楽章のマーチ部分が終わり歓喜の歌が最後に再現される直前の 525小節以降ホルンのシンコペーションの型が異なる。 この他にも、まだまだ多くの異なった点がありますが、以上の4カ所を中心に 以下の演奏を中心に紹介していきます。 「モダン楽器によるもの」 ・ ジンマン&チューリッヒトーンハレ管 (1998年録音ベーレンライター版) ・ マッケラス&ロイヤルリヴァプールフィル(1991年1月 デル・マールの校訂に準拠) ・ アバド&ベルリンフィル (1996年 ベーレンライター版) ・ 高関健&群馬交響楽団(1994年 ブライトコップ旧版を基に、マルケヴィッチ版と自筆譜 を参照) 「古楽器によるもの」 ・ ガーディナー&オルケストラ・レヴォルショナル・エ・ロマンティック (1991年録音 デル・マールの校訂に準拠) ・ インマゼール&アニマ・エテルナ (1999年 ベーレンライター版) ・ ヘレヴェレッヘ&シャンゼリゼ管 (1998年ベーレンライター版) ・ ブリュッヘン&18世紀オーケストラ (1992年 様々な基本資料をからブリュッヘンが取捨選択) また番外編としてワーグナーやワインガルトナーの改変のより徹底した改訂版として、 マーラー版と近衛版の演奏も紹介します。 ・ テイボリス&ブルノ国立フィル(マーラー版) ・ 近衛秀麿&読売日本響(近衛版)
(2001.12.15)
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