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「第九を聴く」22 ハンガリー系の指揮者たち フェレンチク、オーマンディとショルティ
  
ヤノシュ・フェレンチク(1907〜1984)

ブタペスト生まれ、ブタペスト国立歌劇場の指揮者から出発し、1947年からウィーン国立歌劇場の常任指揮者、以後53年からその死までハンガリー国立響の音楽監督、その間にブタペスト国立歌劇場総監督、ブタペストフィルの音楽監督も兼任するなど、ハンガリー音楽界の顔的存在。他のハンガリー系の指揮者がアメリカを中心とする海外で活躍したのと対照的にフェレンチクの活動は終生ハンガリー国内とその周辺に限られていました。
幅の広いレパートリーの持ち主で数多くの録音がありますが、お国物のバルトークやコダーイは得難い味があります。

  ハンガリー国立管弦楽団、ブタペスト合唱団、
 S:アンドル、A:シルマイ、T:コロンディ、Br:ナジ
  (1974年  ブタペスト、トロッコ・テール教会)
ベートーヴェン交響曲全集の中の1枚。落ち着いた気配が全体を支配しる自然体の演奏。第2楽章のリズム感も良く、第3楽章など渋い独特の味があり、バランスのとれた演奏です。合唱、独唱者は平均的な出来。他のハンガリー系の指揮者は、速めのインテンポの演奏が多いですが、フェレンチクは旋律線の横の流れを重視しているように思えます。
ただ、小さくまとまりすぎていて、今一つ自己主張があっても良いと思います。
楽譜の改変はほとんどありませんが、バリトン独唱のテーネーはG-Fに改変しています。

ユージン・オーマンディ(1899〜1985)

ブタペスト生まれ、天才ヴァイオリニストとしてデビュー、17才でブタペスト音楽院の教授なりましたが、21才で渡米した時にマネージャーに騙され無一文になり、やむなくキャピトル劇場で映画の伴奏オケに入団、ヴァイオリンを弾いたり指揮をしていました。この時に非常に多くの経験を積んだようです。やがてチャンスが訪れ、ミネアポリス管、続いてフィラデルフィア管の音楽監督。ストコフスキーの育てた華麗なサウンドにさらに磨きをかけました。
第9はフィラデルフィア管を振った2種の録音があり、今回は再録音を聴いてみました。

 フィラディフィア管弦楽団、モルモン合唱団
  S:アマーラ、A:チョーカシアン、T:アレグサンダー、Bs:マカーディ
    (1964年 9月)
これも全集中の1枚。いささかゴージャスなベートーヴェンですが、初めの3つの楽章は重量感溢れる見事な演奏だと思います。特にキレの良いリズムとオケの華麗な響きのバランスのとれた第2楽章は、聞いていて精神の高揚を覚えるような素晴らしい出来。中間部との静と動の対比も見事に決まっています。おそいテンポでじっくりと巨大な音楽を聞かせる第1楽章も充実。しかし終楽章ですべてがぶちこわしとなってしまいました。レチタティーヴ部分のベースの大仰な動き、金釘流の四角四面な合唱、ひたすら楽天的な独唱者たち。特に極端に遅いマーチ部分の導入部、バスドラムとシンバルのジンタ調のダサさには思わず苦笑。二重フーガ部分ではトランペット、ホルンに大胆な加筆をおこなっています。終結部に突然響きの変る部分があり、聞いていてはっとさせられました。
オーマンディは、かなり大編成で演奏しているようで、他の演奏では聞こえないような内声部が突然協調されたりしています。特に第3楽章に著しく思わずスコアを探ってしまいましたが、楽譜に書かれている音符ばかりでした。

ゲオルグ・ショルティ(1912〜1997)

ブタペスト生まれ、バルトーク、コダーイに指示、ブタペスト国立歌劇場の練習指揮者から出発といったフェレンチクとほぼ同じキャリアで始まっています。ピアニストとしても
達者でジュネーヴ音楽コンクールの優勝歴もあります。61年からシカゴ響の音楽監督で、鋭敏な耳の良さで、この世界最高のオケをさらにパワーアップさせました。
カラヤンやバーンスタインが相次いで世を去った後、この二人を引き継いでザルツブルク音楽祭などの中心人物となり、一時世界の音楽界を背負っていた感がありました。
第九はシカゴ響を振った2種の録音がありますが、今回は第1回目録音を聴いてみました。

  シカゴ交響楽団、合唱団、
S:ローレンガー、A:ミントン、T:バロウズ、Bs:タルヴェラ
  (1972年5月)
現代的なエネルギー感に満ちた演奏。オケも独唱者たちも上手くて、欠点のない完璧な演奏とも言えます。ただ巨大な音響になんとなく空虚さを感じるのも事実で、遅いテンポで無作為に聞かせている第3楽章も浅い表現に終始しています。ショルティは曲の各所に小さな山場を作りだし、聞き手を飽きさせない演出達者なところがあって、オペラでは大きな威力を発揮するのですが、ベートーヴェンのような曲になるとあざとさを感じてしまいます。どうもこの人は、ベートーヴェンもチャイコフスキーも同じように考えているようです。楽譜の改変は第4楽章歓喜の主題の第2ファゴットを加え、第1楽章も各所でヴァイオリンのオクターヴ上げ、バリトン独唱のテーネー部分もG−Fに改変していますが、第2楽章、第4楽章冒頭は改変なしでした。
(2001.11.20)
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