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「第九を聴く」21 ハンガリー系の指揮者たち セル
ジョージ・セル(1897〜1970)

ブタペスト生まれ、3才でウィーンに移り、11才でウィーン交響楽団とピアニストとして競演、16歳で指揮デビュー。翌年ベルリンフィルを指揮しベルリン国立歌劇場の練習指揮者。ストラスブルグ(ストラスブール)、プラハ・ドイツ、ダルムシュタット、デユッセルドルフの各歌劇場の後、ベルリン国立歌劇場の第1指揮者となりました。オーストラリアへ客演中に第2次世界大戦が勃発し、アメリカに移住、1946年にクリーヴランド管弦楽団の常任指揮者となり、このオケを世界最高のオケに育てました。
今回はクリーヴランド管とのスタジオ録音とフィルハーモニア管を振った海賊盤ライヴ録音を聴いてみました。

  クリーヴランド管弦楽団、合唱団(合唱指揮:ロバート・ショウ)、
 S:アディソン、A:ホブソン、T:ルイス、Bs:ベル
  (1961年 4月15日)
オケのアンサンブルの精度は、聴いていて鳥肌がたつようなものすごさです、おそらくメンゲルベルク時代のアムステルダム・コンセルトヘボウ管、70年代中頃のカラヤン&ベルリンフィルと並び、今まで歴史上存在したオーケストラの中でもっとも精密なアンサンブルだと思います。中でも第4楽章の終結部の猛烈な速さで駆け抜ける中、ピッコロをはじめとした木管部分が、一糸乱れぬ正確さで吹ききってしまうのが驚異的です。
ギリシャ彫刻のような、均整のとれた無駄のない演奏。隙の全くない完璧な第1楽章など、ひんやりとした冷たさ、さえ感じます。
ロバート・ショウに率いられた合唱も完璧の出来ですが、独唱者は小粒で、だいぶ聞き劣りがします。第2楽章の最後にティンパニの一撃を加えたり、ホルンの強奏部分を倍管に補強したりといった具合でかなり譜面に手を加えていました。歓喜の主題オケ部分の始め、第1ファゴットの登場する部分にも第2ファゴットをチェロに重ねています。バリトンソロのテーネーもG−Fに変更。

 フィルハーモニア管弦楽団、合唱団
  S:ハーパー、A:ベイカー、T:ドウス、Bs:クラス
    (1960年?)
60年代の海賊盤ライヴ録音。いわば他流試合の珍しい顔合わせの録音です。
ライヴ特有の熱気に満ちた祝祭的な気分に満ちた演奏ですが、羽目を外さないのがセルらしいとは言えます。独唱者はスタジオ録音よりも優れていると思いますが、テノールが力みすぎて音程がふらつき、独唱部分のみのアンサンブルになると突出してしまうのが残念でした。曲が進行していくにつれて、演奏者たちが次第に燃えてくるのが伝わってくる演奏です。緩急と強弱の差がスタジオよりも大きく、セルがところどころに仕掛けるテンポの動きも、オケと指揮者との真剣勝負の緊張感が感じられ、非常に面白く聴くことができました。Vor Gottのフェルマータも気が遠くなるような長さを延ばしています。曲全体にティンパニの音が凄まじく、第2楽章など猛烈な音響が鳴り渡ります。
中でも第4楽章の終結部分で、突然テンポを落とし一気に猛烈なアッチェレランドをかけ、曲を締めくくる部分の鮮やかさには、大きな驚きと感銘を受けました。
譜面の改変はクリーヴランド管とのスタジオ録音とほぼ同じで、ホルンとティンパニにかなり手を加え、第2楽章ティンパニの最後の一発も強烈。バリトンソロのテーネーもG−Fに変えていましたが、歓喜の主題の第2ファゴット追加はこの録音にはありませんでした。
(2001.11.15)
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