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「第九を聴く」23 フランス系の指揮者たち モントゥーとアンセルメ
今回から、フランス、ベルギー、スイスなどフランス語圏の周辺生まれの指揮者たちの第九を紹介します。これらの指揮者はドイツ系の指揮者たちの多くが歌劇場の練習指揮者から出発しているのに対して、不思議と弦楽器奏者出身が多いのが特徴です。

ピエール・モントゥー(1875 - 1964)
パリ生まれ、パリ音楽院でヴァイオリンを学び、コロンヌ管のヴァイオリン奏者を経て指揮デビュー、ディアギレフ率いるロシアバレエ団の指揮者として、「春の祭典」や「ダフニスとクロエ」の初演を振っています。モントゥーは若い頃ブラームスの前でヴァイオリンを演奏したり、グリーグやラヴェル、サン・サーンスたちといった音楽史上の大作曲家たちとも親交があった、もはや歴史上の人物といえます。パリ響(今は消滅)、ボストン響、サンフランシスコ響、ロンドン響の常任指揮者を歴任しました。

  ロンドン交響楽団、ロンドン・バッハ合唱団、
 S:ゼーダーシュトレーム、A:レズニック、T:ヴィッカース、Bs:ウォード
  (1962年 5月)リハーサル付き
モントゥー87才の第九、モントゥーの第九にはボストン響との録音もありますが未発売です。
リズムの冴えた緊張感溢れる若々しい第九。芯のピシっとしたロンドン響の明快な響きが素晴らしい名演奏でした。
向かって左側から1stヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリン、コントラバスといった対抗配置は、各声部の動きが明確になり、各所で威力を発揮しています。特に歓喜の主題で通常あまり聞こえない2ndヴァイオリンの細やかな動きが美しく響きます。
楽譜にきわめて忠実の端正な演奏で、ブライトコップ旧版を使用しているほとんどの指揮者が実行している、第1楽章50小節めから60小節目にかけての木管楽器の2泊目のオクターヴ上げも、モントゥーは上げずに楽譜のとおり演奏しています。
ベートーヴェンの楽譜の改変についてモントゥーがインタビューされた時に、「私はワインガルトナーよりもベートーヴェンを信用するね。」と答えたエピソードを思い出しました。
テノールのヴィッカースは、声量はありますが、他の独唱者とスタイルが異なっているために幾分浮き上がり気味。
LPにははじめの3つの楽章リハーサル風景もオマケで収録されていましたが、各楽章のはじめにポイントだけを説明し、部分部分を取り出してさっと仕上げる手際の良いものでした。直後に予定されていたフランス楽旅のために、最後にフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を演奏しているのが印象的でした。

エルネスト・アンセルメ(1883 - 1969)
ジュネーヴ生まれ、数学と物理学をローザンヌ大学で専攻するかたわら作曲をブロッホに学ぶ。ローザンヌ大学の数学の教授職を辞し指揮者としてデビュー、ロシア・バレエ団の指揮者となり、ドビュッシーやラヴェル、ストラヴィンスキーと親交がありました。1915年ジュネーヴ交響楽団の指揮者、1918年にスイス・ロマンド管弦楽団を創設し、66年まで音楽監督の地位にありました。フランス物だけではなく、ロシア物やバッハからベートーヴェン、バルトークに至る膨大な量の録音を残しています。70年代ころまでは、アンセルメ&スイスロマンド管のラヴェル、ドビュッシーの演奏といえば、デッカの録音のマジックとあいまって絶対的な権威がありましたが、今では、…。

 スイス・ロマンド管弦楽団、ブラッシュ合唱団、ヴォー国民協会青年合唱団
  S:サザーランド、A:プロクター、T:デルモータ、Br:ヴァン・ミル
    (1959年)
交響曲全集中の1枚。ラテン系の明るい第九、同じフランス系のオケを使っていても、シューリヒト盤は、ベートーヴェンの本質に迫る普遍的な演奏を実現していましたが、アンセルメ盤は、明晰ではあるものの、大きなテンポの動きやオケのバランスが不自然で、ローカルな演奏を聴いたという印象以上のものではありませんでした。
独唱も良いし、合唱も多少荒れる個所もありますが、まとまりは良い出来です。ただ、いささかアンサンブルのラフなオケが足を引っ張っている感じです。木管楽器のカラフルな響きは声部の動きが手に取るように見える面白い効果がありますが、鼻をつまんで歌っているようなフランス式のバソンの響きはベートーヴェンには違和感を感じてしまいます。
遅い第1楽章は大きなテンポの動きをみせたユニークなもので、クライマックス直前の突然のrit、軽く乾いたテインパニの響きも不思議な解釈でした。楽譜の改変はワインガルトナーのそれを準拠したものですが、第4楽章オケ部分のみの歓喜の主題全合奏部分のトランペット、ホルンにかなりの加筆があります。

(2001.11.22)
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