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「ラプソディー・イン・ブルー」を聴く9・・・トスカニーニ
今回は20世紀最大の指揮者の一人、アルトゥーロ・トスカニーニの演奏です。

ガーシュインが「ラプソディー・イン・ブルー」の成功によってアメリカ楽壇で確固たる地位を築いていた1931年、トスカニーニはニューヨークフィルの首席指揮者として活躍していました。
この年、「ラプソディー・イン・ブルー」の続編として「セカンド・ラプソディー」をほぼ完成させていたガーシュインは、トスカニーニに友人を介して会うことができました。
トスカニーニの手による「セカンド・ラプソディー」のニューヨーク初演の希望を秘めていたガーシュインでしたが、ここでトスカニーニが「ラプソディー・イン・ブルー」を聴いたことがないことを知って愕然としてしまいます。
そこでガーシュインはトスカニーニの前で「ラプソディー・イン・ブルー」を含む自分の作品を演奏しましたが、結局トスカニーニは深い興味を示さなかったようです。

そのトスカニーニが、ガーシュインの死後グローフェの1942年版の編曲がなされた
同じ年に「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏しました。幸いにしてそのライヴ録音が残っています。

・NBC交響楽団
ピアノ:アール・ワイルド、 クラリネット;ベニー・グッドマン
(1942年11月1日 ニューヨーク カーネギーホール ライヴ録音)
1942年編曲版のおそらく最も早い時期の演奏会録音。カット無しの完全全曲演奏で、さらにソロクラリネットにジャズクラリネットの大御所ベニー・グッドマンを起用した完璧の布陣。ピアノはフィードラー盤でも弾いていたアール・ワイルド。

期待のグッドマンの冒頭ソロは大きなミスがあり、これにはがっくり。
自由にテンポを揺らそうとするピアノのワイルドと、楽譜に忠実にして怖いほどの鋭さを見せるトスカニーニ率いるNBC響とが奇妙な対称を見せた演奏でした。

特に中間部は鋭角的で戦闘的、ミリタリー調のドンシャリ感のマーチ風演奏と化していました。アンダンティーノのクライマックスでは楽譜にないシンバル追加、終結部の凄まじいまでの迫力は、まるでレスピーギの「ローマの祭」終曲のようです。

トスカニーニには「パリのアメリカ人」の録音もありますが、結局トスカニーニは、
ガーシュインの音楽にアメリカ音楽としての独自性を認めながらも、自らが共感を示すまではいかなかったようです。
(2004.02.15)
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