back top next
「ラプソディー・イン・ブルー」を聴く5・・・作曲者自演その2
1924年エオリアンホールの初演の模様をそのまま再現したCDがあります。
(「ラプソディー・イン・ブルーの誕生」モーリス・ペレス指揮)
その中の第1曲目「貸し馬屋ブルース」でしきりに吹き鳴らされるクラリネットのグリッサンドは、ラプソディー・イン・ブルーの冒頭ソロに実に良く似ていました。
今回は、ガーシュインの自作自演から、ポールホワイトマンバンドとの共演録音を紹介します。いずれもグローフェ編曲によるジャズバンド版。

・ポール・ホワイトマン指揮 ポールホワイトマンオーケストラ
 ピアノ:ジョージ・ガーシュイン
(1924年 6月10日 録音)
初演当時の雰囲気を今に伝える貴重な録音。クラリネットソロも初演時のロス・ゴーマンが吹いています。何よりもこのゴーマンのソロが個性的で、1942年版ではテヌートである箇所をこちらはアクセント。そのアクセントも前のめりにペッペッといった具合の特徴的なものです。10小節目のフェルマータもごく短く切り上げていました。
細身のオーボエのような音色は、まるで別の楽器を聴くかのようです。
その他の演奏者の自発的なテンポの揺れも実に快く、
一転してアンダンティーノの歌わせ方は、甘いムード満点でグレンミラー調。
まさにラプソディックな楽しい演奏でした。
録音も各楽器のソロを比較的リアルに捉えていて、年代の割りには立派なものでした。

なお、1942年版のスコアと比べると細部にかなりの違いがあり、
最初のピアノソロ部分にはバスクラが入る前からオケの伴奏が入ってきます。
当時のSP盤の収録時間の制約のためにかなりのカットもあります。
練習番号14から25までカット、ピアノソロにもかなりのカットがありました。
もっともこの曲自体がさまざまな楽想の接続曲のようなイメージなので、
このカットも気になりませんでした。

・ナサニエル・シルクレット指揮 ポールホワイトマンオーケストラ
 ピアノ:ジョージ・ガーシュイン
(1927年 4月21日)
電気録音方式が開発されたための再録音。カットの内容は旧録音と同じですが、
演奏内容はかなり異なります。指揮者のシルクレット(1895〜?)はハムビッツァー門下で、ガーシュインと供に作曲を学んだ仲。ニューヨークフィルとメトロポリタン歌劇場のクラリネット奏者を歴任。今では完全に忘れられた演奏家ですが、トスカニーニをガーシュインに紹介したり、当時のメトロポリタン歌劇場の名歌手たちの伴奏をつけた録音なども残っています。

この演奏はインテンポで楽譜に忠実、幾分重厚でジャズよりもクラシックの方角に視点を向けた演奏と言えそうです
完全に自家薬籠中の練れた表現はさすがのものがありますが、演奏が整った分旧盤に見られた躍動感や演奏者の自発性は薄れていると思います。
クラリネットソロの表情も現在一般に聴かれるものと大差なく、ずいぶんと大人しくなりました。ソロもゴーマンではないようです。
ホワイトマンバンドの看板曲となったラプソディー・イン・ブルーも初演以来3年が経過し、ホワイトマンバンドの演奏回数も、ここまでにはおそらく数百回を超えたのではないでしょうか。
演奏しているうちに、演奏譜そのものも演奏の現場に則したものに次第に変化していったようにも思えます。
(2004.01.28)
back top next