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「マイケル・ティルソン・トーマス(1949〜)」 今回はアメリカの指揮者マイケル・ティルソン・トーマスの演奏です。 1944年ハリウッドの演劇一家に生まれ、南カリフォルニア大学に学びました。 1966年にバイロイト音楽祭のアシスタントをつとめた後ボストン響のアシスタント指揮者。後にバッファローフィルの音楽監督、ロンドン響の首席指揮者の後、サンフランシスコ響の音楽監督。トーマスは若手音楽家の育成に熱心で、1988年マイアミに若いオーケストラ楽員を育成する目的のニューワールド響を創設しています。 ロンドン響の首席指揮者時代に「春の祭典」の実演を聴いたことがありますが、シャープで透明度の高い名演奏を聴かせてくれました。 また、トーマス一家はガーシュインとも関係が深く、祖父と父はガーシュインにピアノを学び、伯父はガーシュインの親友でした。 いわばガーシュインは身内同然の音楽で、キャリアの初期から積極的にガーシュインの作品を録音しています。 トーマスの「ラプソディー・イン・ブルー」は以下の3つの録音があります。 ・コロンビア・ジャズバンド ピアノ:ガーシュイン ・ロスアンジェルスフィルハーモニック ピアノ:トーマス ・ニューワールド交響楽団 ピアノ:トーマス 今回は2つの演奏を聴いてみました。 ・コロンビア・ジャズバンド ピアノ:ジョージ・ガーシュイン(自動ピアノのためのロール) (1976年 6月23日 ニューヨーク 23丁目スタジオ スタジオ録音) 1924年初演版による世界初の全曲録音。ピアノにガーシュイン自身のピアノロールを使用したことにトーマスのこだわりが感じられます。 1924年版の楽譜は、ワシントンの国会図書館に保管されています。この譜面を元に 作製されたパート譜がワシントン・ナショナル交響楽団のライブラリーに有り、トーマスはこの複写譜を用いました。ガーシュイン自身の全曲ピアノロールには、ピアノソロ部分の他にオーケストラ部分の音も記録されていた(穴をあけられていた)ために、一音一音をチェックしながらピアノソロ部分のみを残す作業をおこなったそうです。 ガーシュインの自動ピアノロールを再生しながら合わせた、いわば機械相手のコンチェルトのようなもので、中間部のテンポ・ジュストなどはピアノに引っぱられて、早送りのテープを聞いているような不自然さも感じられますが、概ね良く付けているなという印象です。特に後半の華やかさはなかなかのもので、終結のグランディオーソ部分でのガーシュインのテンポの変化にぴったりと付いていってます。 自動ピアノの再生音もコンドンコレクションに次ぐ忠実度で、ガーシュインの意思がそのまま乗り移ったかのような快演。 実は、ガーシュインの自動ピアノに合わせた同じ試みの録音がもうひとつあります。 (ニュートン・ウエイランド指揮デンヴァー・シンフォニックポップス管 米プロ・アルテ)初演者のポール・ホワイトマンがかつて所属していたデンヴァー響の別働隊による 演奏で、譜面上はトーマスと変わりありませんが、自動ピアノの再生がお粗末であるうえにオケもピアノの後追いで、完全な失敗作となっていました。 ・ロスアンジェルスフィルハーモニック ピアノ:マイケル・ティルソン・トーマス (1982年 2月 ロスアンジェルス ドロシーチャンドラーバビリオン スタジオ録音) こちらも1924年ジャズバンド版による演奏。冒頭のクラリネットはかなりテンポを動かし表情豊かですが、演奏全体は端正で常識的な演奏となりました。 ちょっと都会的な洗練さの中に斜に構えた気取りが感じられます。トーマス自身のピアノも良く、独特の魅力のある演奏ですが、トーマスの才気煥発とした生きの良さが旧盤に比べると薄れていて、小さくまとまりすぎていると思います。
(2004.03.31)
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