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ここに1枚の興味深い写真があります。それは二人の男性が連弾で何かを弾いている写真で、添えられた解説によると、1925年のニューヨーク、20世紀初頭のイタリア作曲界を代表するレスピーキとカゼッラが、「ローマの松」と「ローマの噴水」をウエルテミニヨンの自動ピアノのために演奏しているところ、とあります。 自動ピアノというのは、紙製のロール紙に穴のようなものを空けて演奏を記録し、再生の際には、このロールを専用のピアノにセットすると自動的に再生される、というもので、録音技術が貧弱だった20世紀初頭に流行し、当時の大ピアニストやマーラー、 グリーグ、サン・サーンスといった大作曲家も自らの演奏を記録したほどでした。 したがって、レスピーギの弾く4手版の「ローマの松」の演奏が存在することになります。しかしいろいろと調べましたが、レスピーギ生誕100年の1979年に、「ローマの噴水」は出たらしいのですが、結局「ローマの松」の行方はわかりませんでした。 もしレスピーギの演奏を聞く事ができれば、作曲者自らが考えていたテンポや解釈が、ある程度推定できたのですが。 ただ幸いなことに、4手版のCDがイタリアから発売されています。 ピアノ:Tiziana Moneta & Gabriele Rota というイタリアのピアニストによる実に見事な演奏です。 (1996年 録音 イタリア DISCANTA16) この演奏を聞くと、華やかなオーケストレーションの影に隠れていた曲の素顔が自然に 浮かび上がってきます。 スカルラッティの鍵盤曲を彷彿させる「ボルゲーゼ荘の松」、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」とほとんど同じ世界の「ジャニコロの松」、そして古代旋法そのものの「カタコンブの松」。酷な言い方かもしれませんが、これらには作曲者の独創性はあまり感じられません。結局レスピーギは先人の偉大な作曲技法を、さまざまな形で取り入れた職人的な作曲家だったのだと思います。ただニ流の作曲家として終わらず、現代にも充分に通用しているのは、天才的なオーケストレーションの技術があったからではないでしょうか。 今までおよそ40数種類の「ローマの松」の演奏を紹介してきました。 実は、まだ紹介しきれなかった演奏もいくつかあり、その中でもルーマニアの指揮者シルヴェストリや、日本の広上、大友などそれなりに個性を主張するものも持っていましたが、演奏会も終わりましたので、今まで紹介した中から、現在の時点で、私自身が印象に残った演奏を☆印で紹介して、この連載の終わりとしたいと思います。 ☆ ☆☆☆☆ ・ ライナー&シカゴ交響楽団 ・ オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団(RCA) ・ カラヤン&ベルリンフィル(来日公演) 曲が曲だけに、オーケストラの威力が物を言います。この点これらの3団体はずば抜けていました。中でもライナー盤は、何度聞いても興奮させられる名盤だと思います。 ☆☆☆☆ ・ トスカニーニ&NBC交響楽団(映像) ・ デ・サーバタ&ニューヨークフィル この二つはモノラルで、録音が良ければトップにもなれたと思います。 ・ チェリビダッケ&シュトウットガルト放送交響楽団 ・ シノーポリ&ニューヨークフィル ・ ケンペ&ロイヤルフィル オーケストラのショウピースとしての一面だけではなく、もっと深い新たな視点を投げかけた演奏だと思います。 ☆☆☆ ・ マリナー&アカデミー管弦楽団、 ・ ペドロッティ&チェコフィル、 ・ アンセルメ&スイスロマンド管弦楽団 このあたりはほとんど私の好みです。 マリナーは、チェリビダッケの解釈に先駆けたものとして、ペドロッティは、この曲を録音している多くのイタリア人指揮者たちのローカルな解釈の代表者として。 そしてアンセルメは、フランス的なオケの音色美と計算され尽くしたテンポ設定の妙が 印象に残りました。 番外編 ・スヴェトラーノフ&ソビエト国立交響楽団 ここまで徹底すれば立派です。 * 4手ピアノ版、実はオケ版と細かな点で少なからずの相違点があります。 オケ版出版譜には、原典版に比べていろいろな誤りがあるのではないでしょうか。
(2003.01.19)
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