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「ローマの松」を聴く2・・・古代楽器ブッチーナ使用の謎
今回は「ローマの松」の成立と特異な楽器編成のお話。
「ローマの松」が作曲された1924年のイタリアは、ムッソリーニを中心とするイタリアファシズムの台頭期で国家主義一色にイタリア中が熱狂し、古代ローマ帝国の文化の見直しが国家レベルで奨励されていた時代。このような状況下でのイタリア賛美一色の「ローマ三部作」が作曲されたということで、この曲がファシズムへの讃歌として作曲されたのだという意見もありますが、はたして事実はどうなのでしょうか。
レスピーギと親交があり、ファシズムには断固として敵対していた名指揮者のトスカニーニが生涯にわたって「ローマ三部作」を演奏し続け、決定盤ともいえる録音を残している事実を見れば、答えは自ずから出ていると思います。

さて、「ローマの松」の楽器編成は、完全な3管編成にオルガンやハープ、ピアノ、チェレスタと非常に多くの打楽器、そしてユニークなのはGramophoneとスコアに書かれた小鳥の声のレコードが“ジャニコロの松”の最後に使用されることです。
楽器よって小鳥の鳴き声を真似る試みは古くからありましたが、実物の小鳥の鳴き声を用いるのは音楽史上初の試みでした。スコアにはレコード番号まで記入されていますが、1924年といえば、レコード録音が始まって半世紀を経ているとはいえ、まだまだ録音技術は貧弱な時代。このような状況でレコード録音を演奏会に使用するとは、実に奇抜な思いつきでした。

次に舞台のオーケストラとは別にバンダと呼ばれる別働隊の存在。「ローマの松」の
第2曲でレスピーギは、グレゴリオ聖歌のサンクトウスを舞台から離れた位置からトランペットソロで吹かせ、第4曲の“アッピア街道の松”では舞台から外れた位置で、バンダと言われる金管部隊を待機させ、舞台上のオーケストラと呼応させるという視覚的な演出も仕掛けています。これはイタリアルネッサンス期の作曲家ガブリエリたちが教会上でニ群もしくは三群に分かれたオーケストラを呼応させて演奏させた事実を彷彿させます。

そして「ローマの松」と「ローマの祭」のバンダには、ブッチーナ(Buccina)
と呼ばれる古代ローマで使われた金管楽器が指定されています。
この楽器は水牛の角のような形状の金管楽器で、バルブやピストンもなく音は自然倍音のみしか出す事ができません。レスピーギはソプラノ2、テナー2、バス2の計6本のブッチーナを指定していますが、現実のスコアには自然倍音以外の音も記譜がされており、
レスピーギは単なるイメージとして古代ローマの楽器を指定したとも考えられます。
実際にはソプラノとテナーのブッチーナパートはトランペット、そしてバスブッチーナはトロンボーンが用いられる場合が多いようです。またテナーブッチーナーパートは音域が低いためトランペットでは充分な音量を得られにくく、ホルンを用いる場合もあります。レスピーギ自身は、ソプラノとテナーについてはフリューゲルホルン、バスについてはユーフォニウム若しくはバリトンを想定していたようです。

なお本物のブッチーナは、1930年代にドイツのアレキサンダー社によって復元され、
ナチスドイツの親衛隊が吹いている写真も存在しますが、レスピーギがこの楽器の音を
実際に聞いたのかという事実はわかりません。おそらく「ローマの松」が本物のブッチーナを用いて演奏されたことは、ないのではないかと思います。

他の作曲家では、ベルリオーズが荘厳ミサの中でブッチーナを指定していますが、
こちらは古代ローマのブッチーナとは異なり、スライドがついたトロンボーンのような楽器で、
ベルが蛇の口を模している不思議な形の楽器です。これはどちらかといえば現在のユーフォニウムやバリトン、チューバの流れを組む楽器ですが、案外レスピーギはこの楽器を想定していたのかもしれません。
(2002.10.30)
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