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今回は、ハンガリー出身の名指揮者3人がアメリカのメジャーオケを振った演奏を紹介します。 「フリッツ・ライナー(1888〜1963)」 バルトークに学びドレスデン国立歌劇場の首席指揮者時代に、マーラーやR.シュトラウスとも親交を結んだハンガリーの名指揮者フリッツ・ライナーには、シカゴ交響楽団音楽監督時代の録音があります。 ・ シカゴ交響楽団 (1957年 スタジオ録音) ライナーの残した録音の多くは、比較的早いテンポで筋肉質の引き締まった演奏が多く、「展覧会の絵」も無駄のない楷書風のきっちりとした名演奏です。 淡々と歌う「古城」や「カタコンブ」の後半部分「死者とともに生ける言葉で」に漂う寂寥感などの歌い上げ方の見事さを聴いていると、ラヴェルのオーケストレーションの精妙さとそれを忠実に再現するライナーの棒の確かさを感じずにはいられません。 重戦車がゆっくりと坂道を登るような巨大な「ヴィドロ」も印象的。シカゴ交響楽団の威力はここでも圧倒的で、後のショルティ時代の大音響とパワーで迫る演奏ではなく、金管楽器のピッチが完璧に揃った結果、柔らかで巨大な響きとなった「キエフの大門」は、この演奏の一大クライマックスとなっていました。 「ジョジ・セル(1897〜1970)」 クリーヴランド管弦楽団の音楽監督として、このオケを他に比類のないほど透明で精緻なアンサンブルに鍛え上げたジョージ・セル。セルも「展覧会の絵」の録音を残しました。 ・ クリーヴランド管弦楽団 (1960年 スタジオ録音) セルの端正で古典的な音楽造りは、同郷のライナーと共通している芸風ですが、ライナーほど厳格ではなく、セルの音楽にはより柔軟で多少の遊び感覚が感じられます。 演奏全体は早いテンポ感覚に支配されていますが(グノームなど)、絶妙なテンポに乗って流れるように歌う「古城」に聴かれるように、余韻を持った歌心を忘れていません。 「卵の殻を被った雛鳥の踊り」の中間部で、オーボエとハープの掛け合いがこれほど雄弁に描かれた演奏は初めて聴きました。「キエフの大門」では練習番号120の直前のティンパニをシンバルのトレモロに差し替え、続く121の直前にトスカニーニやオーマンディーと同様にティンパニのクレシェンドを加えていました。 「アンタル・ドラティ(1906〜1988)」 バルトークやコダーイの教えを受け、卓越したオーケストラビルダーとして、 ダラス響、ミネアポリス響、デトロイト響などのオーケストラを立て直した ドラティには1949年から1960年まで音楽監督を務めたミネアポリス交響楽団 時代に多くの録音を残しました。 ・ ミネアポリス交響楽団 (1958年ころ スタジオ録音) ミネアポリス交響楽団(ミネソタ響)音楽監督時代にアメリカのマーキュリーレーベルに残した録音。 知的に整った演奏。パリっとしたリズム感、がっちりとした構成感覚に裏打ちされた素晴らしい演奏だと思います。 「グノーム」の終結部のぴったり揃った弦楽器の上昇音形を聴くと、ドラティの薫陶を受けたミネアポリス響が、シカゴ響やクリーヴランド管と遜色ない実力を備えているのが判ります。「キエフの大門」の終結部、練習番号121から小節の頭に入るティンパニの前打音を楽譜通りに忠実に再現しています。最初聴いた時、ダダン、ダダンと入るティンパニに驚き、手にしたスコアを見直したら譜面とおりなのでした。
(2002.05.18)
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