back top next
「展覧会の絵」を聴く27・・・マルケヴィッチ
イーゴリ・マルケヴィチ(1912〜1983)」
キエフ生まれ、貴族だったために家族は、ロシア革命を逃れスイスに移住、音楽の教育はパリで受けたという国際派の大指揮者。
妥協のない性格のため実力の割にはポストに恵まれず、ラムルー管やモンテカルロ歌劇場管、ハバナフィルといったニ流どころのオケの音楽監督に甘んじ、70年代以降はフリーの立場で世界中のオケに客演するかたわら、ベートーヴェンの交響曲の校訂に心血を注ぎました。録音は、ベルリンフィルやロンドン響といったオケを振って数多くの録音が残っています。私は最後の来日時に実演を聴く事ができましたが、実演で聴いたカラヤンやバーンスタイン以上の強烈な印象を受けました。
「展覧会の絵」は1953年のベルリンフィル、1977年のライプツィヒゲヴァントハウス管
とのスタジオ録音があり、最後の来日時のN響とのライヴがLDとして発売されたこともあります。また、日本フィルとの映像もあるようです。

・ベルリンフィル
 (1953年  スタジオ録音)
厳しさに満ちた妥協を知らないマルケヴィッチの芸風を如実に見せた演奏。
スパッと切り替わる曲想の変化の鮮やかさ、早いテンポで進む鋭利な刃物のようなリズムの切れの良さなど、聞き手に緊張を強いる辛口の演奏です。
リモージュ」や「卵の殻を被った雛鳥の踊り」の色彩感は実に見事。フルトヴェングラー時代のベルリンフィルの、密度の濃い重厚で低音強調型の響きもドスの効いたマルケヴィッチの解釈にうまく合っていました。

・ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
 (1973年 スタジオ録音)
ベルリンフィルの旧盤とは、柔らかなオケの響きと教会での残響の多い録音のため、印象は随分と異なります。マルケヴィッチの解釈も随分と変化しました。
冒頭の「プロムナード」のトランペットにはアクセントをことさら強調させ、「チュイリー」は極端に遅く、「ヴィドロ」の冒頭は、聞こえないほどの弱音から始まり、次第にクレシェンドをかけますが、チューバの響きがなんとも貧相で、あまり成功しているとはいえない出来でした。
曲全体の見通しが良く、はじめは比較的遅めに始まりますが、「プロムナード」を、間奏曲的な扱いではなく、次の曲を予感させる前奏曲的として演出を施し、「カタコンブ」以降は、次第にテンポを上げて曲を締めくくるところなど、さすがに大人の音楽。

・NHK交響楽団
(1983年 1月23日 ライヴ映像)
マルケヴィッチ最後の来日時のライヴ映像。長い指揮棒、鷹のような鋭い目、老いたりとはいえ、長身の指揮姿からオーラが迸る素晴らしい指揮。
曲の解釈はゲヴァントハウス管とは大きく変りませんが、幾分鋭角さは薄れているようです。色彩的な「チュイリー」と「リモージュ」。スタジオ録音では、いまひとつだった「ヴィドロ」も、アクセントを明確につけ次第に盛りあがる部分も実に自然な曲運びでした。
曲が進むにつれ、楽団員の目つきが次第に変り、演奏にも次第に熱が入っていきますが、マルケヴィッチの指揮ぶりは、逆に段段と冷静な指揮振りとなっていくのが良くわかりました。まさに大指揮者貫禄の演奏でした。
(2002.05.10)
back top next