「ウラディミール・ゴルシュマン(1893〜1972)」
両親はロシア系でパリで生まれたゴルシュマンは、パリで音楽を学び、ティボーやカペーといった伝説の名手たちが加わった室内合奏団の指揮者の後、ディアギレフのバレエ・リュッスで活躍しました。1930年代以降は、アメリカに活動の中心地を移し、50年代から60年代前半にかけてはセントルイス響やウィーン国立歌劇場管を振って通俗名曲を中心に多くの録音を残しています。「展覧会の絵」は、ウィーン国立歌劇場管を振った録音がアメリカのヴァンガードレーベルから出ていました。
・ウィーン国立歌劇場管弦楽団
(1960年代 スタジオ録音)
夥しい数の録音を残しているこのオケの実体は、ウィーンフィルの母体であるウィーン国立歌劇場の専属オーケストラの場合と、ウィーンフォルクスオパーのオーケストラの場合があるようです。
このゴルシュマンの振っているオケの実体は、独特のウインナオーボエの音色は聞かれるものの、比較的痩せ気味の弦楽器の響きから推測するとフォルクスオパーのオケだと思います。
ゴルシュマンの演奏は楽譜にきわめて忠実、なんら過不足のない演奏ですが、個性的な面白みは欠けています。1920年代のヨーロッパの古い映画を見るような古臭さを感じさせる不思議な演奏でした。このあたりがゴルシュマンが忘れられてしまった理由かもしれません。ロシア的なアクの強さもなく、すっきりとしていて幾分優しさを見せた、パリ風のモダンな演奏とでも言うのでしょうか、随所でラテン的なカラフルさを狙った部分も見受けられますが、オケの地味な響きのために今一つ充分な効果をあげていないと思います。
中では「グノーム」終結部のガラガラの音が個性的であったのと、チュイリーの1拍のテヌートを強調して、子供が、なにかをねだる様子をうまく表現しているのには印象に残りました。さらっと仕上げた嫌味のない「サミエルゴールデンベルクとシュミイレ」や、金管楽器の響きが立体的に入れ替わる「カタコンブ」などは、さすがに熟練の棒でした。
「エルネスト・ブール(1913〜)」
現代音楽を得意としたフランスの指揮者エルネスト・ブール。ストラスブール市立管やバーデンバーデンの南西ドイツ放送響の音楽監督をつとめ、現代音楽を積極的に紹介しました。
ひところFM放送で、盛んにブール指揮した最新の現代音楽の演奏が放送されていました。
実力のわりには残された録音が少なく、知る人ぞ知る名指揮者です。
「展覧会の絵」は、南西ドイツ放送響を振ったスタジオ録音があります。
・南西ドイツ放送交響楽団
(1970年代 スタジオ録音)
アンセルメやクリュイタンスのようなフランス的な演奏とは異なる、冷静な目でスコアを見据えた、明晰で現代的な名演奏。速めのテンポの演奏、「古城」の幻想的な雰囲気にも欠けておらず、「ヴィドロ」のフォルティシモ部分では、通常フルオーケストラに埋没するチューバの8分音符を強調するなど、随所にはっと驚く閃きが感じられる演奏です。
特にインテンポでどんどん進む後半部分は圧倒的で、「キエフの大門」の絶妙のテンポの揺らし方など、指揮者の只者でない実力を示してくれる素晴らしい演奏でした。
なおこの録音にはフランス外盤と、日本盤のCDがあり、ドイツの廉価レーベル、インターコードのライセンスを受けた日本盤は、1枚500円程度でDIYショップのワゴンの中などで時々売られています。録音は外盤よりも安い国内盤の方が鮮明。
(2002.03.30)
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