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次回の定演のメインはムソルグスキー作曲ラヴェル編曲の組曲「展覧会の絵」。 ここで「エロイカ」「タコ5」「第九」二続く第4弾として、「展覧会の絵」の さまざまな演奏を紹介していきます。 ロシア5人組の一人ムソルグスキー(1839〜1881)の人気作、組曲「展覧会の絵」は作曲者が35歳の作品。親友の画家で建築家のヴィクトール・ガルトマン(1834〜1873)の遺作展が開かれた際に、展覧会の主催者で美術・音楽評論家のウラディミル・スタソフに献呈される形で作曲されました。 ムソルグスキーの作風は、慣習的でアカデミックな作曲技法や構成に囚われない独創的なもので、「展覧会の絵」もガルトマンの11枚の絵にインスピレーションを得た10曲の作品の間にプロムナードと呼ばれる間奏曲風の短い曲を挟んで進行するといった、今までに類のない構成となっています。展覧会を訪れた入場者が、次の絵に移動する時間の経過をプロムナードによって表現しているわけですね。 もっとも、この作品がこれほどまでに人気のある一番の理由は、管弦楽の魔術師、スイスの時計細工師といわれる、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの色彩豊かな編曲に負うことが大きいのは言うまでもありません。 もともとムソルグスキーの原曲が、オーケストラ曲のピアノスケッチのような趣なので、ラヴェル以外にも多くの作曲家がオーケストレーションに挑戦していますが、ラヴェルの編曲があまりにも天才的な閃きに満ちた仕事のために、他の編曲が色褪せて聞こえるのはしかたがないことでしょう。 実はオリジナルのピアノ譜にも、原典版とリムスキーコルサコフによる改訂版があり、 両者にはいくつか細部の相違があります。 編曲物となると、オケ版だけでも10数種。他に曲の一部の編曲や吹奏楽、ピアノ以外の器楽、ELOのようなロックまで視野に入れると、いったいどのくらいの数の編曲があるのか全く見当もつかない状態です。 今回は手持ちのピアノ演奏15種、オケ編曲86種の中から、ピアノによる代表的な演奏とオケ編曲の中で印象に残った演奏に絞って紹介していきたいと思います。以下は作曲と出版の経過とオケ編曲の一覧です。 「作曲の経過とさまざまなオーケストラ用編曲」 ・1874年 原曲が作曲される。 ・1886年 リムスキー・コルサコフによるピアノ校訂版・出版 ・1891年 リムスキー・コルサコフの弟子トシュマロフによる オーケストラ編曲(7曲のみ) ・1915年 イギリスの指揮者サー・ヘンリー・ウッドによる編曲 (プロムナードは冒頭の1曲のみ、他は全曲) ウッドはロンドン名物プロムス(プロムナードコンサート)の 創設者、バッハのオルガン曲などの多くのオケ編曲を残しています。 ・1922年 スウェーデンの作曲家レオ・フンテクによる全曲オケ編曲、初演。 無声映画時代に伴奏音楽の多くの作品を残しているドイツの指揮者で 作曲家ジョゼッペ・ベッセ(1877〜1973)のサロンオーケストラ用編曲。 ボストン響の指揮者クーゼヴィッキーがラヴェルに編曲を依頼。 ・1923年 ラヴェル編曲のパリ初演。以後5年はクーゼヴッキーが演奏権を得る。 ・1924年 ラヴェルの弟子で、ロシア生まれのレオニダス・レナルディの編曲。 ・1930年 クーゼヴィッキー&ボストン響によるラヴェル編の初録音。 ・1931年 ピアノ原典版の出版 近衛秀麿がラヴェル編をロシア初演。 ・1934年 近衛秀麿によるオケ編曲の初演。 ・1937年 フィラデルフィア管のクラリネット奏者ルシアン・カイエによる編曲。 ・1939年 フィラデルフィア管の指揮者、レオポルド・ストコフスキーによる編曲。 ・1942年 ドイツの指揮者ワルター・ゲールによる編曲。 ・1954年 モスクワ音楽院の作曲科教授セルゲイ・ゴルチャコフによる編曲。 ・1966年 冨田勲による手塚治虫のアニメーションのためのオーケストラ用編曲 冨田勲は後にシンセサイザー用にも編曲(1974年) ・1977年 ローレンス・レオナルドによるピアノとオーケストラのための編曲。 ・1982年 ピアニスト、ウラディミール・アシュケナージによる編曲。 ・1992年 ドイツの作曲家トーマス・ウィルブラントによる編曲。 ・1994年 ブルガリアのピアニスト、エミール・ナウモフによるピアノとオーケストラ のための編曲 以上の編曲の中で、今のところ私が音源の入手ができていないのは、ウッド、ベッセ、 レナルディ、近衛、ゲールですが、ワルター・ゲールにはLP録音があり、これが ゲールの編曲である可能性もあります。 またレナルディ版についても、一部分の録音が存在し、またラヴェル編と表記されている録音の中にも、レナルディのアイディアが取り入れられている演奏があるようです。 (現在探索中)
(2002.01.13)
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