その6 / アメリカで活躍した指揮者たち(その3)
オーマンディとショルティ
ハンガリーは優秀な指揮者を数多く輩出していて、その何人かはアメリカのメジャーオーケストラの指揮者となっています。 シカゴ響のフリッツ・ライナー、ゲオルグ・ショルティ、フィラデルフィア管のユージン・オーマンディ、クリーヴランド管のジョージ・セルなど。いずれも20世紀を代表する名指揮者です。
この中ではオーマンディとショルティがショスタコーヴィッチの5番の録音を残していま す。

ユージン・オーマンディ(1899〜1984)は、7才にして王立音楽院のヴァイオリン科教授となるなど、いわゆる天才ヴァイオリン奏者として知られた存在でした。
演奏旅行先のアメリカでマネージャーに逃げられ、無一文で路頭に迷い無声映画館の オーケストラに拾われるといった劇的な話があります。そのままアメリカに留まった後 ミネアポリス響の指揮者を経てストコフスキーの後任としてフィラデルフィア管の指揮 者となりました。以後44年この名オーケストラの指揮者として数多くの録音を残しました。
その美しく華麗な響きはフィラデルフィアトーンともいわれ独特の魅力がありましたが オーマンディー辞任後はその華やかさは徐々に失われてしまいました。

オーマンディには65年のCBS盤と77年RCA盤の二つの録音があります。
65年録音を聴いてみました。 演奏は各声部を緻密に描き分けた実に明快な演奏です。 各楽器のバランスも見事でフィラデルフィア管の優秀な合奏力も聞き物、 全体的になかなかゴージャスな演奏になっています。
しかしストリングスが完璧なバランスで響く第3楽章など、あまりに美しすぎて曲の意 図している方向とはちょっと違うような気がします。 第4楽章は比較的遅めのテンポでじっくり聴かせますが、随所で見られる急速な加速が 幾分唐突な印象を受け、大詰めのコーダに大きなクライマックスを意図している様子も 見えすぎか。
オーマンディーは曲を効果的に響かせるために、スコアにない楽器を重ねたりすること もありますが、ここでも第1楽章のシンバルにごく控えめにタムタムを加えたり、 第4楽章のトランペントソロの数小節前のコントラバスにテンパニの一打を重ねたり しています。またコーダにもピアノにチェレスタの連打を加えたりしていて面白い効果 を上げていました。

バルトークやコダーイに学んだゲオルグ・ショルティ(1912〜1997)は、ピアニストとし ての腕前もなかなかで、若い頃ジュネーヴ国際コンクールでの入賞経験もあります。 シカゴ響には1969年から1981年まで常任指揮者を務め、このオケをアンサンブルの精度 とパワーの巨大さでは世界最高の楽団に育て上げています。 ショルティの音楽も、ダイナミックでエネルギッシュな音楽造りに特徴があった印象が あります。
ショルティは晩年になるまでショスタコーヴィッチを取り上げることがなくて、 確かどこかのインタビューで、「私には出来れば避けたい曲が2曲あって、その中の1曲 がショスタコーヴィッチの第5番である」といったことを述べていたので、まさか録音 するとは思いませんでした。
オケはウィーンフィルで、このコンビの来日公演でもこの曲が演奏されたそうです。

演奏はさぞダイナミックに演奏しているのかと思いきや、意外にも内省的、静的とでも 言うのでしょうか、弦の美しさを生かした幾分枯れた演奏でした。 このCDの解説の中のショルティ自身のインタビューには、この曲はショスタコーヴィッ チの交響曲の中で最もロシア的なものである。といったことを述べていますが、私に は、この演奏のどこがロシア的なのかよくわからない演奏でした。

(2001.1.29)

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