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「第九を聴く」9 戦前派巨匠の時代?X フリッツ・ブッシュ
フリッツ・ブッシュ(1890〜1951)。
ヴァイオリンのアドルフ、チェロのヘルマンとともにブッシュ3兄弟の長男として主に
ドイツやイギリスで活躍したドイツの名指揮者です。
主な活動時期が第二次世界大戦と重なり、残された録音が極端に少ないため凄い実力の持ち主でありながらいまや忘れられた存在です。ドレスデン国立歌劇場やイギリスのグライドボーンで音楽監督を務め、名歌手フィッシャー・ディースカウを発掘、数々のオペラの歴史的な名公演をなしとげた名匠です。
数少ない録音の中でも第9は、1950年と34年のライヴが残されています。
オケはいずれもデンマーク放送管弦楽団。

・ デンマーク放送管弦楽団、合唱団、
    S:トーリンド、A:イェナ、T:シェーベルク、Br:バーディング  
   (1950年9月9日 ライヴ録音)

速いテンポで情熱的な推進力に満ちた演奏です。オーケストレーションもブッシュ独自の手が入った色彩的なもので、第2楽章の第2主題は木管楽器に、第4楽章のアンダンテ・マエストーソからフガートにかけてもかなりのパートにトランペットを重ね、祝祭的な華やかさを盛り上げています。特にフガートのクライマックス部分は、天から陽光が降り注ぐような輝かしい演奏です。またテノールのソロの後、歓喜の合唱が再現する直前に、テインパニの猛烈なクレシェンドを加えて独特の効果を上げていました。歓喜の主題の開始部でチェロとベースに第2ファゴットを重ねているのはベートーヴェンの自筆譜を参照したのでしょうか。
独唱者は馴染みのない名前ですが、手堅いアンサンブルを聴かせます。
バリトンソロのfreudenvollereはトスカニーニ盤と同じく2度に分けて歌っています。デンマーク放送合唱団も良くまとまっています。
オケ側には、第3楽章の各声部の絡み合い部分で木管楽器に多少危ない部分があったり、フィナーレのコーダでシンバルが最後に取り残される、といった実演にありがちな事故もありますが、ブッシュがドレスデンのオケに聴かれるような渋くて美しい響きをデンマークのオケからも引き出しているのが古い録音からでも十分に伝わってきました。

・ デンマーク放送管弦楽団、合唱団、
    S:ロキータ、A:ステフェンセン、T:ペーターケイ、Br:キプニス  
   (1934年 ライヴ録音)

第4楽章のみの録音。これも比較的古い時期のライヴ演奏ですが、50年盤を遥かに上回る白熱の名演奏です。オケも後の録音よりも高水準で特に合唱のうまさは特筆もの。
独唱者では、ウクライナの名バスアレキサンダー・キプニスが抜群の歌唱を聴かせ、
余裕の冒頭のソロは聴いていて圧倒されました。
オケの改変は50年盤とほぼ同じですが、歓喜の主題前のティンパニのクレシェンドはありませんでした。終楽章だけの録音なのが実に残念ですが、ライヴ演奏でこれだけの演奏を聴かせるのは、ブッシュの実力の凄さだと思います。
(2001.08.27)
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