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フルトヴェングラー(1886〜1954)の続編です。 今回はフルトヴェングラーの第九の中で最も古い1937年録音と 最後の第九録音となった1954年の演奏を紹介します。 ・ ベルリンフィル、フィルハーモニー合唱団、 S:ベルガー、A:ピッツィンガー、T:ルートウィッヒ、Br:ワッケ (1937年5月1日 ロンドン クィーンズホール) イギリス国王ジョージ6世戴冠祝賀コンサートのライヴ。長い間録音の存在すら知られていませんでしたが、1984年フルトヴェングラー没後30年の年に日本EMIがLPを発売、世界中のフルトヴェングラーファンを驚かせました。 当時のアセテートディスクに録音されていたもので、針音はありますが録音状態はさほど悪くありません。世界初発売となった国内LPはディスクの切れ目がうまく繋がっていなかったようですが、その後出たCDを聴く限りにおいては問題はありません。 演奏は50才代壮年期のフルトヴェングラーの演奏ということで、さぞ若々しい演奏だと思いきや、意外と老成した演奏です。 第1楽章などゆっくりと進めていくのですが、後年の重々しさはなく、むしろ静的で慎重な趣。第2楽章以降は一転して生命力溢れる表現、第4楽章はせっかちさも感じられるほどの早さで始まり、歓喜の主題も大きなユレはなく、淡々とした歌わせ方には後の録音にない良さがあります。特にヴィオラの絶妙なヴィヴラートが印象に残りました。名歌手ベルガー以下当時のドイツ一流メンバーを揃えたソリストも見事なもの。合唱の実体はよくわかりませんが、発音の軽さから想像するとイギリスで組織された合唱団かもしれません。幾分ドイツ的な重量感には欠けますが、熱狂的な歌唱を聴かせます。vor Gotのフェルマータは私が聴いたフルトヴェングラーの第九の中では最長でした。 オーケストレーションの改変は後の演奏と変らず、当時としてはかなり楽譜に忠実な演奏です。第4楽章合唱部分257小節以下のテノールパートの低い部分をフルトヴェングラーは通常1オクターヴ上げさせていますが、この37年と54年盤は楽譜のとおりに歌わせていました。 フルトヴェングラー独特の第九フィナーレの猛烈なアッチェレランドはここでも健在ですが、幾分唐突で取って付けたような印象です。 ・フィルハーモニア管、ルツェルン音楽祭合唱団、 S:シュワルツコップA:カヴァルティ、T:ホップ、Br:エーデルマン (1954年8月22日) フルトヴェングラー生涯最後の第九。この演奏の3ヶ月後に他界しています。 今までのフルトヴェングラーの第九は即興性を見せながらも、テンポ設定に一定のパターンがありました。しかしこの演奏は今までにない間の取り方、テンポのユレを見せています。フルトヴェングラーが晩年に到達した崇高にして偉大な第九で、歓喜の爆発というよりも内省的な演奏に仕上がっています。 フィルハーモニア管の淡白な響きが純粋な透明感を助長しているようにも思えますが、 演奏の随所に緊張の弛緩する部分もあり、老いの翳が多少感じられます。 第4楽章オケ部分歓喜の主題の歌い始めはかなり重く、暗さすら感じられます。やがてフルトヴェングラー自身が唸り声を上げながら急速にテンポを早め、頂点では崇高なクライマックスを築きます。独唱は相変わらず文句のない出来ですが、エーデルマンのレチタテーィーヴ部分に、フルトヴェングラーが今までにない長めのテンポ設定をとるため、多少のとまどいがあるように感じられます。vor Goは短くあっさり片付けた肩の力の抜けたもの。合唱はかなり検討していますが、中間部610小節あたりで突然力を失いバラけそうになっています。これは合唱側というよりもフルトヴェングラーの指揮に何かが起こったのだと思います。 以上部分的には多少の問題は残りますが、透明で深い第3楽章には、いつまでもその美しさに浸っていたいような深い感動を覚えました。創立間もないフィルハーモニア管は既に世界最高水準に達していて、ホルンのデニス・ブレイン以下特に管楽器群は驚異的な名技を聴かせます。録音はターラから出ているCDが生々しい収録で、フルトヴェングラーの残された第九の中では一番良い録音だと思います。
(2001.08.11)
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