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「第九を聴く」38 チェコの指揮者2 ノイマン
「ヴァツラフ・ノイマン(1920〜1995)」
プラハ生まれ、プラハ音楽院でヴァイオリン学び同時にターリヒに指揮を師事、
チェコフィル、スメタナ弦楽四重奏団でヴィオラ奏者として活躍。1948年病気のクーベリックの代役として指揮デビュー。1949年のクーベリックの亡命後は、チェコフィルの指揮者となり、その後ブルノフィル、ベルリンコミッシュオオパー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の音楽監督を歴任。1968年チェコフィルの首席指揮者であったアンチェルが亡命するとチェコフィルの首席指揮者に就任しました。
1990年までその地位にあり、後任のビエロフラーベクが1991年に辞任すると再び首席指揮者となりました。ノイマンは、チェコフィルが団の存続にかかわるような危機をむかえるたびにワンポイントリリーフのような形で登場してきました。いわゆる便利な繋ぎとして重宝されていたような印象です。確かにノイマンの前後にチェコフィルに登場した、ターリヒやクーベリック、アンチェルといったチェコの代表的な名指揮者に比べると、幾分地味な存在ですが、晩年は素晴らしい演奏を聴かせました。

私はウィーン国立歌劇場で、ノイマンの指揮によるドヴォルザークの歌劇「ルサルカ」を聴いたことがありますが、ウィーンフィルの能力を充分に引き出した圧倒的な演奏でした。
ノイマンの芸風にはある種の生真面目さが感じられ、初期の演奏には堅苦しさを感じさせるものがありました。しかし、晩年には練れた解釈が大きな余裕と暖かさを感じさせるものに変化していったと思います。
第九は東京とプラハでのライヴ録音があります。

・チェコフィルハーモニー管弦楽団、プラハフィルハーモニー合唱団
 S)スミチコヴァー  A)ソウクポヴァー
 T)ブジビル     Br)ノヴァーク
 (1976年 12月3日 東京文化会館 ライヴ録音)
チェコフィル来日公演でのライヴ収録。日本コロンビアが開発したデジタル録音(当時はPCM録音)での世界初の第九の録音として話題になりました。

厳格なまでにリズムの正確さにこだわった演奏。第1楽章冒頭の弦楽器のきざみをこれほど厳密に再現した演奏は珍しいと思います、横の流れよりも縦のリズムを重視した演奏です。楽想が変わる直前にテンポをいくぶん落とし気味にしていて、部分的に大きなテンポの動きがあり、第1楽章の終盤のritをここまで極端におこなった演奏は初めて聴きました。
全体にゴツゴツとしたとっつきにくいスタイルで、これは初期デジタル録音特有の音の硬さにも原因がありそうです。
第4楽章ア・ラ・マルチアの部分の大太鼓がほとんど聞こえないのは、録音の為かもしれません。第2楽章第2主題にはホルン、第4楽章の冒頭にトランペット追加。

合唱は小人数ながらぴったりとしたアンサンブルで、お見事としか言いようがありません、アンダンテ・マエストーソの透明感も秀逸。これは合唱を聴く1枚。

・チェコ・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
 S)ガブリエラ・ベニャチコーヴァ、A)アンネ・ギーヴァング、
 T)ギュンター・ノイマン、Br)アルトゥール・コルン
  (1989年 プラハ スメタナホール ライヴ)
1989年にチェコスロヴァキアの社会主義体制が崩壊した直後、反体制運動の中心であった市民フォーラム主催のコンサートライヴ。この反体制運動にはノイマンも積極的に参加したそうです。

特別な状況下のコンサートのため、熱気に溢れた演奏ですが、ノイマンの確信のある指揮ぶりで、勢いだけに流されない引き締まった演奏となりました。
旧盤に見せたリズムの切れはそのままに、自然な横の流れをも導き出した優れた演奏です。
旧盤ほどの個性的なテンポの動きは見せませんが、ライヴならではの即興的な解釈も見せ、第4楽章の202小節では大きなritを見せています。
チェコフィルの合唱団は大編成でやる気充分ですが、旧盤のプラハフィルの合唱団よりもアンサンブルがラフで、これはだいぶ聞き劣りがします。興奮しすぎたのでしょうか。
独唱者は旧盤よりもこちらが圧倒的に上、ただしテナーは張りきりすぎです。
オーケストラではティンパニ奏者が実に素晴らしく、特に第1楽章中間部では絶妙のタイミングと音色。演奏全体を引き締めていました。
(2003.10.20)
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