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「第九を聴く」17 ドイツ正統派の指揮者たち ヨッフム
  オイゲン・ヨッフム(1902〜1987)
南ドイツのバーベンハイゼン生まれ、ミユンヘンオペラの練習指揮者からキール歌劇場(沼響の齋藤先生のいた歌劇場です)、マンハイム歌劇場の後、ハンブルク国立歌劇場の音楽監督、戦後はバイエルン放送響の創設時に係わり首席指揮者となりました。その後アムステルダム・コンセルトヘボウ管やバンベルク響の首席指揮者を歴任し、両オケを率いて来日もしています。
ヨッフムの第九の録音歴は古く、1937年に早くもハンブルク国立歌劇場のオケを振って、第九の録音を残しています。その後53年のバイエルン放送響、69年のコンセルトヘボウ管、78年のロンドン響といった4種のスタジオ録音が存在します。
今回はコンセルトヘボウ管、ロンドン響のステレオ2種の録音を聴きました。

  アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、オランダ放送合唱団
S:レープマン、A:レイノルズ、T:リッダー、Bs:フェルトホフ
  (1969年6月4日〜9日)
ヨッフムがコンセルトヘボウ常任時代に残した、ベートーヴェン交響曲全集の中の1枚。
オケの抜群のうまさと、暖かで芳醇な美しい響きが楽しめる演奏です。
ヨッフムの指揮も、のびやかでドイツ的な堅実さを備えた安心して聴ける第九でした。
主題の再現する直前の微妙なテンポの落とし方、各楽章の最後に僅かなritをかけるのは、往年の指揮者たちに良く見られた解釈です。
重心の低い響きの中にも快適な速さを見せる第2楽章、粘らず淡々と森の中を逍遥するかのような第3楽章など、テンポ設定の自然さが光ります。
全体として、厳しさや緊張感に満ちた迫力とは無縁の穏やかな演奏で、第4楽章の前半部分では幾分物足りなさも感じますが、軽快なテンポのマーチ部分以降は、独唱陣のまとまりの良さと合唱のうまさで、なかなか充実した演奏となりました。
ところどころにみせる金管群の強調も実に効果的。
原典主義を採るヨッフムの常として、この演奏も譜面に極めて忠実、第1楽章のヴァイオリンパートのオクターヴ上げや第2楽章第2主題のホルン追加もなし、また第4楽章の歓喜主題部分のチェロ、バスパートに自筆譜に記されている第2ファゴットを加えていました。

  ロンドン交響楽団、ロンドン響合唱団
 S:テ・カナワ、A:ハマリ、T:バロウズ、Bs:ホル
    (1978年2月27日〜3月1日)
ヨッフム晩年のベートーヴェン交響曲全集中の一枚、ヨッフム4度目にして最後の第九となりました。テンポ運びなどの基本的な解釈はコンセルトヘボウ盤とほぼ同じですが、
第2楽章や第1楽章に金管楽器を旋律に重ねるなど、いくつかの慣例的な譜面の改変があります。第4楽章の第2ファゴット追加はコンセルトヘボウ盤と同じ。
ヨッフムのダイナミックレンジの広い、彫りの深い表現と、オケの引き締まった気迫に満ちた響きで壮大なスケールの名演となりました。
独唱者も粒の揃った文句のない出来、ただ、合唱は音の出だしが多少遅れ気味で、団員の技量もオランダ放送合唱団に比べると多少落ちるようです。
(2001.10.26)
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