「巨人を聴く」32・・・・独墺系の指揮者たち3 ラインスドルフ
「エーリヒ・ラインスドルフ(1912〜1993)」
ウィーン生まれ、ウェーベルン率いる労働者合唱団の練習ピアニストからキャリアを始める。1934年からザルツブルク音楽祭でワルター、トスカニーニの下で練習ピアニストとして修行を積み、その後渡米。
クリーヴランド管、ロチェスターフィル、ニューヨークシティオペラの音楽監督やメトロポリタン歌劇場の音楽顧問も歴任し、1962年からミュンシュの後任としてボストン響の音楽監督に就任。この時期に膨大な数の録音を残しています。
1969年にボストン響から離れた後はウィーン響、ベルリン放送響の首席指揮者となり、主にヨーロッパを中心として活躍しました。

ラインスドルフは耳の良さに定評があり、厳しいトレーニングでは楽団員に対しズバズバと誤りを指摘したために楽団員からは嫌われていたそうです。
またオペラからコンサートレパートリーまで何でも振れる職人気質が災いして、実力のわりには日本での評価は低かったと思います。

ラインスドルフは60年代の比較的早い時期からマーラーを録音し、「巨人」の他には、第3番と第5番、第6番のスタジオ録音があります。

「巨人」は2種のスタジオ録音の他、ライヴ映像とライヴ録音があります。

・1962年10月    ボストン響     スタジオ録音
・1962年12月    ボストン響     ライヴ映像
・1971年     ロイヤルフィル   スタジオ録音
・1983年     クリーヴランド管  ライヴ録音


・ボストン交響楽団
(1962年10月20−21日 ボストン シンフォニーホール スタジオ録音)
RCAへのスタジオ録音。この2か月後のライヴ映像も残されています。

かつて千円の廉価盤全盛の時代の「巨人」の録音と言えば、東芝のセラフィムシリーズのクレツキと、RCAグランプリクラシカルシリーズのこのラインスドルフの演奏でした。

第1楽章、第2楽章リピート有り、第4楽章496シンバルなし。
1906年版使用。

知的にして明晰。透明な響きの中で完璧なバランスで各楽器が鳴っていて、譜面を見ながら聴いているとどの楽器も明確にトレースできます。
演奏全体は比較的速めで、一定のテンポ感の中でオケが十分に鳴りきっている見事な演奏だと思います。

第一楽章172小節3,4番ホルンの消えゆくようなピアニシモの正確さを聴くと相当厳格な練習が積み重ねられたことが想像できます。

第二楽章では健康的で軽快なバスの響き、1906年版の特徴である155小節からのティンパニは入っていませんでした。一方でトリオの部分は典型的な1906年版の譜。
トリオ後半でピチカートに乗った木管の響きの美しさが印象的です。

一歩一歩着実な歩みの第三楽章も退廃的ではない清廉な儚さと美しさがあり、再現部でのホルンの低い響きに重なるコールアングレがこれほど明確に聞こえる例は少ないと思います。終結部の減速と音量の減衰のバランスも見事。

第四楽章は一定のテンポ感が支配。
1906年版特徴の104小節のティンパニは有りません。クレシェンドでの楽器ごとの時間差も見事に音になっています。
280小節のクラッシュシンバルの抑えた響きなど実に芸が細かいと思います。
コーダは徐々に加速。アメリカ的な豪奢なブラスの響きがここで全開。
終盤のホルンにはトランペットとトロンボーンを重ね、この部分(657小節から)のティンパニに加筆があるのが珍しいと思います。

今回聴いたのはRCAグランプリクラシカルシリーズの国内盤LPと、米RCAが出したHigh PerfomanceシリーズのCDです。音の安定感はCDが上ですが、音の鮮度はLPにより強く感じました。
(2015.03.01)