「巨人を聴く」33・・・・独墺系の指揮者たち3  ラインスドルフその2
・ボストン交響楽団
(1962年12月4日 ボストン ハーバード大学サンダースシアター ライヴ映像)
ボストン響のテレビ放映用アーカイヴからの映像。

第1楽章、第2楽章リピート無し、第4楽章496小節めのシンバルなし。
1906年版使用。

スタジオ録音からさほど時間が経っていないので、解釈そのものの大きな変化はありません。
スタジオ録音とは異なり、リピートをおこなっていないのはマーラーの馴染みが薄い聴衆への配慮でしょうか。

アメリカナイズされた派手さの中に、きっちり引き締まった端正さで聴かせる名演だと思います。
モノクロとはいえ映像の威力は大きく、演奏者たちの生の息使いと各声部の絡み合いが明確に伝わってきます。

ラインスドルフの指揮は、平泳ぎのような独特の動きですが指揮棒は使わないもののビートは明快。比較的わかりやすい指揮だと思います。

10本の指から細かなニュアンスをオケから引き出していました。
暗譜、それにしても大きな手です。

第二楽章トリオのヴィオラやホルンパートの映像からは1906年版使用が顕著。

第四楽章最後のホルンの補強は、1912年版指示のトランペット1本、トロンボーン1本ではなく、トランペット1本にトロンボーン2本をホルンに重ねていました。
これは映像で確認できた発見です。

トランペットのヴォアザン、ホルンのスタリアーノら往年の名手たちの姿が拝めるのも貴重。

第一楽章序奏から速めのテンポ、最初のトランペットのシグナルはミュート使用。

第二楽章は気合いの入った開始。ラインスドルフが無表情のままで腰に手を当ててのダンスのような指揮ぶりが、なんとなく可笑しみを感じさせます。トランペットが一瞬音を外していました。
1906年版の特徴である156小節のティンパニは入りませんが、326小節では名手エヴァレット・ファースが派手に叩いています。

第三楽章が終わった直後、今まで無表情だったラインスドルフの表情が一変、殺気漂う目をかっと見開き、両手を鋭く振って第四楽章へアタッカで突入。
なかなかスリリングな展開です。

きちっと整理されたアンサンブルに透明な響き、速めのテンポで一気に駆け抜けます。
指揮もオケも冷静でクールな表情ですが、鳴っている音楽に熱さを感じさせる、まさにプロの技。

中間部の静けさの中で、479小節からのオーボエソロの入る直前にわずかにテンポを落とす部分などうまいものです。
コーダへのヴィオラセクションの導入から、じわりじわりとテンポを上げて緊張感を高めていき、大きな爆発に続きリズムを小気味よく刻むファースのティンパニのカッコよさ。
終盤675小節のティンパニの加筆も効果的。

なお最後のコーダでのホルンの起立はありませんでした。
それなりに熱狂的な演奏で、終演後の客席も大いに沸いていました。

今回聴いたのはICAクラシクスから出ているDVD映像です。
当時テレビ放送されたものでモノクロモノラル、音の質はそれ相応。

それにしてもこのDVD、帯に書いてある日本語の紹介がデタラメばかりのヒドイものです。
ここには、ラインスドルフは60年代にマーラーの交響曲全集(第4番を除く)を残しているマーラーのスペシャリスト・・・・と意味不明のことが書いてありました。

中の英文の解説には、ラインスドルフはボストン響とのシーズン中にマーラーの交響曲の第1,3、4、5,6番を演奏し、この中の第4番を除く全てを録音したと書いてあって、この内容を誤訳してしまったようです。


(2015.03.14)