・ロイヤルフィルハーモニック (1971年4月20日、Kingsway Hall、 London スタジオ録音) DECCAのフェイズ4方式の一連の録音。 ラインスドルフは1950年代半ばにロイヤルフィルを振って、ウエストミンスターレーベルへ史上初のモーツァルトの交響曲全集録音を完成させています。 DECCAへのラインスドルフがロイヤルフィルを振った録音は、この「巨人」が唯一の録音だったと思います。 第1楽章リピート無し、第2楽章リピート有り、第4楽章496小節シンバル有。 1966年ラッツ校訂版 エレガントでロマンティックな中にオケを豊麗に鳴らした雄大な名演。 細かな改変はありますが譜面に正確で、「巨人」のスタンダードとも言える演奏だと思います。 ゆったりしたテンポの中で雄大にオケ鳴らして歌い上げる第一楽章では、序奏での遠方から聞こえるはずのトランペットは比較的大きめの音。 50小節からのミュートを付けたホルンが順番にカノン風に入ってくる部分では、52小節めの4番ホルンがミュートなしで入っています。 譜面の指定では次の小節の3番ホルンからミュートなしとなっているところですが、ラインスドルフに何か考えがあるのでしょうか? 第二楽章はバランスの良い響きの中に幾分ユーモラスな雰囲気が漂います。 前半で何回となく入るトランペットとホルンのタタタタターンの合いの手で88小節から92小節までがすっぽり抜けていました。 1966年のラッツ改訂版では92小節のトランペットのみが欠落している問題の箇所ですが、これは編集ミスかもしれません。 中間部分のトリオは非常に遅いテンポ。ここでの木管と弦楽器が溶け合った響きが非常に美しく、最後の八分音符は長めに伸ばすのが珍しい解釈。 第三楽章では中間部の「さすらう若人の歌」の部分で3分に分かれるヴァイオリンの内声部を強調。 がっしりしっかり着実に盛り上がる第四楽章。 63小節めのホルンのffはゲシュトプで演奏させているのが珍しく。 136小節からのコントラバスのゴウゴウとした音はすさまじい響き。 静かに歌う中間部の218小節のff>pからヴァイオリンがpで静かに歌う部分への力の抜き方など実にうまいと思います。 嵐が過ぎ去った458小節のSehr Langsam(とてもゆっくりと)本当に今にも息が絶えるほどのゆっくり歌い、終盤ではテンポを上げて爽快さを傑出。 終盤での朗々と響くホルンもゴキゲンの音でした。 ホルンの補強は譜面の通りトランペット、トロンボーン各1本ずつのようです。 今回聴いたのはキングレコードが出したオーディオファイルシリーズのLPです。 丁寧に造られたLPで、音が非常に良く、第3楽章の345小節で木管とホルンがpで変則的なリズムで絡む難所で、下から支えているヴァイオリンのppのコルレーニョがはっきりと聴きとれます。 フェイズ4方式は70年代に各社で流行ったマルチマイクロフォンによる録音方式のひとつで、20チャンネルのマルチ・マイク・システムで収録した音を、特別なミキサーを通して2チャンネルのステレオにミックスダウンするというものでした。 フェイズ4録音にありがちな明快でありながら各楽器がバラバラに響いているような大味感はなく、楽器全体のバランスも良く優秀な録音だと思います。 (2015.04.04) |