「巨人を聴く」37・・・・独墺系の指揮者たち5 シュミット=イッセルシュテット
ハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900 - 1973)

ベルリン生まれ、ウッパタール歌劇場のヴァイオリン奏者から練習指揮者となり、ロストック、ダルムシュタットの各歌劇場の指揮者を歴任。その後30代でハンブルク国立歌劇場の首席指揮者となり、1942年にはベルリン・ドイツ歌劇場の総監督に就任しています。
1945年にはハンブルクの北ドイツ放送交響楽団の創設に深くかかわり、戦争でドイツ各地に散り散りになっていた優秀な演奏家たちを集め、このオーケストラを短期間で世界的なオーケストラに育てました。

イッセルシュテットのマーラー録音は同世代の独逸系の指揮者同様非常に少なく、スタジオ録音は皆無。放送局に残っていたライヴでは第1、2,4番と「大地の歌」があります。

・北ドイツ放送交響楽団
(1969年1月6日 ハンブルク ムジークハレ   ライヴ録音)

第一楽章、第二楽章リピート有り、第四楽章495小節のシンバルあり。
1967年ラッツ校訂版使用ですが、第二楽章96小節めのトランペットの補筆など、手を加えている部分があります。

これは非常な名演です。精密機械のように緻密で透明な清潔感。
自由闊達で柔軟なフレージングと他のマーラー演奏とは異なるアプローチが新鮮に響きます。

この頃の北ドイツ放送響のアンサンブルの精度は非常な高みに達していて、第三楽章の最初にオーボエが入る部分で、コントラバス、チェロとティンパニが瞬間的に連動して重い響きに変化する部分のタイミングとバランスなど凄いものです。

第一楽章の50小節めからの弱音器のホルンの絡みの途中に入ってくるチェロの存在感とバランスが絶妙。主部に入ると快適なテンポで進行。
144小節のフルートの小鳥のさえずりでは2回目は付点8分としたりますが、この部分をそのまま8分音符で吹かせています。今のところこの演奏のみです。
自然な動きの中でリピート前のファーストヴァイオリン伸ばしの音の強調。

第二楽章はかなり遅いテンポでした。
ゆっくりとしたノンキさにブラックな雰囲気が漂います。
落ち着いた中間部の木管楽器の動きが正確無比でいて色彩豊か。
245小節のフルートは落ちているようです。

第三楽章も柔らかな音で開始。
ポツリポツリとしたティンパニの1音1音の存在感が強烈。
表情豊かなオーボエの呼びかけに荒涼とした雰囲気も漂います。

39小節からの「かなり遅く」指示からテンポが動き始めて45小節の「パロディのように(Mit Parodie)」指示から急に速くなります。
83小節の民謡風の場面に至った時に再びテンポが落ちた時に、寂しさがことさら大きく強調されて聞き手に迫ります。
この変幻自在の移り変わりが凄いものです。
102小節のヴァイオリンのポルタメントも古さは感じられませんでした。
再現部の後半は冒頭よりもテンポを速めていました。

第四楽章はオケの優秀さが際立ち、透明な響きの中に時間差を伴ったクレシェンド、デクレシェンドが忠実に音になっています。
249小節のホルンにトロンボーンを付加しているようです。
直後から少しテンポを速めてドスの利いた重量級の音楽運びながら、過度に粘らぬのがお見事。
木管楽器をオルガンのように響かせる中、弦楽器とブラス群が細かく上昇し、大きなクライマックスを築きあげます。

終盤のホルンの補強は譜面通りのトランペットとトロンボーン。
最後の小節の1拍目にシンバル付加。

純音楽的にして美しくも結晶化したオケの響きに停滞のない音楽運びの充実の名演。

今回聴いたのはTAHRAが出していたCDです。
細かな部分も聴き取りやすい自然な響きのステレオ録音。
(2015.06.29)