続いて録音史です。 マーラーの楽曲が現在のように頻繁に演奏されるようになったのは、マーラー生誕100年の1960年から録音が始まり、1967年に完成したバーンスタインによる交響曲全集の存在と、1967年のウィーン芸術週間における「マーラーフェスティバル」がきっかけだったと言われています。 ウィーン芸術週間のこの時の指揮者は、柴田南雄著「マーラー」(岩波新書)によれば 『嘆きの歌』(トイリング)、『さすらう若人の歌』(ペーム)、 歌曲集『子供の魔の角笛』(プレートル)、『子供の死の歌』(マゼール)、 『リュッケルトの詩による5つの歌曲』(マデルナ)、 交響曲では、『第1番』(プレートル)、『第2番』(バーンスタイン)、 『第3番』(スワロフスキー)、『第4番』(サヴァリッシュ)、『第5番』(ソモギー)、 『第6番』(アバド)、 『第7番』(マデルナ)、『第8番』(クーベリック)、『大地の歌』(クライバー)、 『第9番』(マゼール)、『第10番』のアダージョ(トイリング)。 オーケストラはペームとバーンスタインがウィーンフィル、クーベリックはバイエルン放送交響楽団、他はウィーン交響楽団とオーストリア放送交響楽団でした。 この顔ぶれを見るとバーンスタイン、ベームは別格としても、スワロフスキー、ソモギーら二線級の長老からアバド、マゼール、クライバーらの当時新進気鋭の指揮者達が混在しているのが面白いと思います。 現在この中で存命なのはマゼールとプレートルのみなのが時代を感じさせます。 なおギュンター・トイリングは合唱指揮者として鳴らした人で、ライプツィヒゲヴァントハウス管を振ってマーラーの交響曲第8番を振ったこともあります。 以下は「巨人」の70年までの録音年代順の記録です。なお、一部を除きライヴ録音は除いてあります。 ・ 1940年11月 ミトロプーロス&ミネアポリス響 ・ 1949年 ボルザムスキー&ベルリン放送響 ミトロプーロス盤が「巨人」の初録音。ミトロプーロスは演奏会で精力的にマーラーを取り上げましたがスタジオ録音はこの録音のみ。 エルンスト・ボルザムスキー(1905〜1961)はウクライナ生まれのユダヤ系指揮者。ウィーンでヴァイオリンを学び創設間もないルクセンブルク放送管弦楽団のコンサートマスターに就任。ベルギーに居を定めてベルギー国立管のヴァイオリン奏者、その後指揮者としても活動、戦後はドイツ国内の多くのオーケストラに客演。 ボルザムスキーは、二つの世界大戦に翻弄されて一時は国籍を失うなどいろいろと苦労があったようです。1955年にドイツの市民権を得ましたが、やがて精神を患い第一線を退きました。 1949年の1月16,17日にベルリンフィルに客演し、ハイドンの交響曲第101番、ブリトンのセレナーデ、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組を演奏した記録が残っています。 この「巨人」の演奏は1949年の放送録音をLP化したもので、この曲の最初のLPとして1953年にURANIAからリリースされました。 1999年にDANTEからこの録音とショスタコーヴィチの交響曲第5番、「火の鳥」などの1948−49年頃の放送録音がLPからの板起こしとしてCD化されています。 なお、音楽之友社から発行された「コンプリート・ディスコグラフィー・オブ・グスタフ・マーラー」には、ボルサムスキー指揮ベルリン放送響の演奏として1949年と1953年の2種の記載がありますが、同じものを混同していると思われます。 なおボルサムスキーの経歴については、この記事を読んでいただいている西浦様から下記のサイトに詳しい記事があることをご教示をいただきました。 この場をお借りして御礼申し上げます。 https://en.everybodywiki.com/Ernest_Borsamski ・ 1952年 ホーレンシュタイン&ウィーン・プロムジカ管 ・ 1953年 スタインバーグ&ピッツバーグ響 二人ともユダヤ系の指揮者。ホーレンシュタインもマーラー、ブルックナーを得意とし、マーラーは1、3、4、6番のステレオ正規録音の他、一時はブームのようになってマイナーレーベルから多数のライヴ録音が発売された時期が有りました。 スタインバーグはフーベルマンとともにイスラエルフィルを設立した立役者。 ピッツバーグ響との来日時に「巨人」を演奏しています。ライヴでは2,7番の録音もあります。なおスタインバーグのベートーヴェンの交響曲第9番録音はマーラー版を使用しているといわれています。(私は未確認) ・ 1954年 クレツキ&イスラエルフィル ・ 1954年 ワルター&ニューヨークフィル ・ 1954年 クーベリック&ウィーンフィル ・ 1954年 シェルヘン&ロイヤルフィル 以上までがモノラル期の録音。 いずれもマーラーを得意とした指揮者たちで、クレツキには他に第4、5(アダージェットのみ)、9番、大地の歌の正規録音があり、ライヴでは第2、7、大地の歌があります。 なお第9番の一部と「巨人」には終楽章に大きなカットがあります。 クーベリックにはステレオの再録音を含んだ交響曲全集録音があります。(ライヴは多数)シェルヘンもライヴを含めると、第4番と大地の歌以外の交響曲全曲のマーラー録音があります。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 1957年 バルビローリ&ハレ管 ・ 1958年 ボールト&ロンドンフィル ・ 1961年 ワルター&コロンビア響 ・ 1961年 クレツキ&ウィーンフィル ・ バルビローリもマーラーを得意としていました。これはステレオ初録音、 ボールトのマーラーは非常に珍しくスタジオ録音はこの「巨人」のみですが、他に1947年の放送録音の第3番が発売されています。これは今のところ聴くことが出来る最も古いマーラーの交響曲第3番の録音です。ワルター、クレツキは再録音。 ・ 1962年 ゾルタイ&南ドイツフィル ・ 1962年 スイトナー&ドレスデン国立管 ・ 1962年 ハイティンク&アムステルダムコンセルトヘボウ管 ・ 1962年 ラインスドルフ&ボストン響 ・ ゾルタイはPILZ系の音源でよく目にする指揮者で実体が怪しげな指揮者です。 スイトナーは他に第2,5番の録音が有り、N響来演時の「復活」は名演でした。 ハイティンクは後に全集録音に発展しています。 ラインスドルフも比較的早い時期からマーラーを取り上げていて、他にボストン響を振った第3、5、6番とロイヤルフィルとの「巨人」の再録音もあります。なお「巨人」のライヴ映像も出ていました。 ・ 1964年 オッテルロー&ウィーン祝祭管 ・ 1964年 ショルティ&ロンドン響 ・ 1964年 アンチェル&チェコフィル ・ 1966年 バーンスタイン&ニューヨークフィル ・ 1967年 クーベリック&バイエルン放送響 ・ バーンスタイン、クーベリックは全集録音に発展、ショルティはロンドン響とは2,3番も録音、さらにシカゴ響を振った全集録音もあります。 ・ ・ 1968年 ブリーフ&ニューヘブン響 ・ 1969年 コンドラシン&モスクワフィル ・ 1969年 オーマンディー&フィラデルフィア管 ブリーフ盤は「花の章付き」の初録音、オーマンディーも「花の章」付きです ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 1969年 ホーレンシュタイン&ロンドン響 ・ 1970年 モリス指揮ニューフィルハーモニア管 ・ ホーレンシュタインはステレオ再録音。 モリスは「花の章」も含む1893年ハンブルク稿の初録音。 (2014.03.25) |