「巨人を聴く」15・・・・ワルターその4
・ニューヨークフィルハーモニック
(1942年10月25日 ニューヨーク ライヴ録音)
ニューヨークフィル定期への客演時の録音。この時ワルターはカリフォルニアのビバリーヒルズに居を定めていました。

第一、二楽章のリピートなし。第四楽章練習番号「44」のシンバルなし。
使用楽譜は1912年版(DP3)と1906年版(SP1)の折衷版で、使用譜はワルター最後の「巨人」の録音となった1961年のコロンビア響との演奏とほぼ一致しています。

この時期のニューヨークフィルは、トスカニーニの後を継いだバルビローリが振るわず、
一般には低迷した時代と言われています。
1942年からの2年間は常任指揮者不在の時代でした。

とはいえ第二楽章最後で、速いテンポの中で弦楽器群が駆け上がる部分のぴたりと揃った合奏を聴いていると、この頃のニューヨークフィルが侮れない潜在能力を秘めているのがわかります。腐っても鯛。

テンポの揺れが大きくロマンティックで濃厚な解釈が、コロンビア響とのスタジオ録音に似ていますが、感情の爆発の激しさがより大きく表面に出た演奏でした。

第一楽章26小節のバスクラのカッコウが絶妙の間の取り方で、ノンキさを醸し出しています。序奏全体としてはかなり遅いテンポ。
37小節目で大きく落とし、主部はゆっくりロマンティック。次第に加速しホルンの強奏部分のあとは多少減速。

150小節付近で大きく揺れて、テンポが落ちていくのは楽譜のリタルランド指示よりも早めです。130小節、265−268小節のホルン有りは1906年版
265小節からのトライアングルが入らないのは、コロンビア響との最後の録音と同一。
もしコロンビア響との演奏を聴いてなければ、単にトライアングルが本番で落ちてしまったと思うところです。305−8小節のホルン有り。
終結部でのチューバの強調が緊張感を高めていました。
最終の2小節で急速に速め、スパッとした即興的な変化が爽快。

第二楽章では、121小節ホルン、77−78、80−81小節のトランペット有り、
155−158小節と326−333小節のティンパニ付加は、1906年版の特徴。
トリオは1912版の特徴が顕著。
最後の345−349小節にかけてのヴァイオリンの細かな上昇音型と最後3小節のトリルは見事にぴったりと合っていました。

第三楽章は貧弱な録音のために、最初のコントラバスソロが弱弱しく蚊の鳴くような音ですが、ほとんど聞こえないのがかえって悲壮感を助長しています。
チェロの入りでは小節の最初のアクセントを強調。
比較的淡々と演奏する指揮者が多い第三楽章ですが、ワルターは大きくテンポを揺らせます。
軍楽のパロディの後の70小節め、1番クラリネットが1小節出遅れて、全体に一瞬のほころびが。


第四楽章54小節のトランペットは1912年版の特徴。
84−85小節のトロンボーンを付加し、ワルター独特のペザンテ効果はコロンビア響との録音よりもうまくいっています。104小節のティンパニ付加は1906年版。

107小節めから猛然とダッシュ、突然の変化に大太鼓が混乱して数小節ずれて、2つ余計に叩いていました。
終盤は豪快に盛り上がり、興奮した大太鼓の叩きつけるような猛乱打がすさまじく、凄愴な気配が充満。
129小節でぐっと溜めながら急加速。290小節のホルンなし(1906年版)。
フィナーレ最後のホルンの補強は、トランペット、トロンボーン各1本の1912年版。

今回聴いたのはNML(ナクソスミュージックライブラリー)にアップされている音源です。CDでMusic&Artsから出ているものを基にした音源。レンジが狭く年代相応の音。
(2014.06.26)