「巨人を聴く」19・・・・ミトロプーロス
「ディミトリ・ミトロプーロス(1896〜1960)」
ギリシャ生まれ、生家はギリシャ正教の僧侶の名門。人間離れした耳の良さと記憶力の持ち主で、今では伝説化したエピソードが数多く残っています。
ミネアポリス響(現ミネソタ響)、ニューヨークフィルの常任指揮者を歴任。
辞任後はフリーとしてヨーロッパ各地のオケに客演。 マーラーの交響曲第3番のリハーサル中に心臓発作で急逝。

ミトロプーロスは演奏会でマーラーを積極的に演奏し、バーンスタインがマーラーを取り上げるようになったのはミトロプーロスの影響だといわれています。

ミトロプーロスのマーラーの交響曲録音は、スタジオ録音の「巨人」のほか、1、3,5,6,8,9番のライヴ録音があります。

・ミネアポリス交響楽団    1940年  スタジオ録音   
・ニューヨークフィル     1950年  ライヴ録音
・ニューヨークフィル     1960年  ライヴ録音


・ミネアポリス交響楽団
(1940年11月4日   スタジオ録音)
ミネアポリス響(現ミネソタ響)音楽監督時代のスタジオ録音。「巨人」の世界初録音です。

緩急の落差が大きい演奏ですが、ロマンティックさよりもクールさが勝っていました。
楽譜の指定を無視しても小さな見せ場を作り出す、劇場的で聞かせ上手な演奏です。

第一、 二楽章のリピートなし。使用楽譜は1912年版(DP3)。
第四楽章496小節のシンバルなし。

第一楽章序奏は遅めに始まり、トランペットのファンファーレもじっくり慎重。
序奏から主部に入る前の4小節間で、木管のカッコウに微妙に時間差をつけながら主部に移行する部分など、実にうまいものです。各声部が明快に絡みながら美しく流れていきます。
347小節のクレシェンドが強烈で、ここから急速に音楽は動き始め、慎重居士の前半から一転して後半はテンポは大きく動き、爆発的なクライマックス。

キンキンとした乱暴なまでに刺激的なスケルツォの第二楽章では、最初の4小節はゆっくりと開始し、5小節目で速くなります。
これは付点二分音符=66の速度指定が、スコアの5小節目上に印刷されてあり、ここからテンポ66が始まるという解釈が可能だからです。
同様の解釈はアバドの演奏にも聴かれます。

1967年版(旧全集版)にはない、91小節目にトランペットと121小節めにホルンが入ります。これは第四楽章496小節のシンバルが入らないのも含め、ワルターの演奏と同じで1912年版の特徴かもしれません。

第三楽章は風邪をひいた老人が唸るようなしゃがれた音のコントラバスソロ。
過度に物悲しいオーボエの合いの手。
続く38小節からのオーボエ二重奏でテンポを速め、ここから微妙に音楽が揺れていきます。
速くコミカルな軍楽のパロディの後、49小節でヴァイオリンに大きなルバートをかけて続くヴィオラのピチカートを強調し、セレナーデのような趣で歌わせていました。

第四楽章は最初のシンバルが素晴らしい音。なぜかティンパニが8小節目と21小節目に、スコア指定よりも1小節早く入るのが不思議。
54小節からのトランペット、290小節のホルンが入らないなど、1906年版の特徴も残っていました。

175−8小節にかけて弦楽器がゆっくりたっぷり歌う(Sehr gesangvoll)箇所で、急にテンポは落ちていき、266小節のf指示をpとして、強弱の落差を極端に設定。
622小節のシンバルの見事な響きに導かれてコーダに突入。
ホルンが力の限り吹きまくる678小節からは、トランペットとトロンボーンの補強の音は聞こえず、ホルンのみのようでした。

手持ちはDOCUMENTEの格安ミトロプーロスBOX中の一枚。
おかしなリマスタリングで、オーボエなどの管楽器は明快な音ですが、弦楽器はキンキンした刺激的に響きます。第二楽章のトリオ部分のように極端に音量レベルが落ちる部分が気になりました。


(2014.07.20)