「巨人を聴く」22・・・・ホーレンシュタイン
「ヤッシャ・ホーレンシュタイン(1898〜1973)」

ウクライナのキエフ生まれ、6歳でウィーンに移住し教育はウィーンで受けています。
フルトヴェングラーの助手として出発し、デュッセルドルフ市立歌劇場の首席指揮者。ユダヤ系のためナチに追われアメリカへ移住。
戦後は特定のポストにつかず、指揮棒一本で世界中のオケを渡り歩いた孤高の名指揮者。

ホーレンシュタインの指揮者デビューは、ウィーン交響楽団を振った「巨人」をメインにしたプログラムでした。
      
ホーレンシュタインのマーラーの交響曲録音としては、スタジオ録音では1番(2種)、3,4番と9番、第6番はライヴながらユニコーンレーベルから正規録音として発売されています。その他ライヴでは多数のマーラーの録音があります。

「巨人」は以下の2種の録音があります。

・1952年       ウィーン響    スタジオ録音
・1969年       ロンドン響    スタジオ録音

なお、音楽の友社から出ている「コンプリート・ディスコグラフィー・オブ・マーラー」では、VOXのレコーディングはウィ−ンプロムジカ管になっており、それとは別にライヴ録音として1958年のウィーン響があるとされていますが、1958年の録音とされる演奏は、演奏時間がほぼ同じである上に、記載されているPreiserのCDには1952年録音とあることからVOXと同一録音だと思われます。


・ ウィーン交響楽団
(1952年 ウィーン  スタジオ録音)

1950年代のモノラルからステレオへの移行期、ホーレンシュタインはVOXレーベルの基本レパートリー担当指揮者のような扱いで、バッハ、ハイドン、モーツァルト、べートーヴェンからマーラーまでの数多くの録音を残しています。

同時期のVOXへのマーラー録音としては、この巨人のほか第9番、「さすらう若人の歌」「亡き子をしのぶ歌」があります。
なおオケの表記はLP期にはウィーン・プロムジカ管となっていました。

ホーレンシュタインが指揮者デビューの時に、「巨人」を振ったオケがこの録音と同じウィーン交響楽団でした。


第1、 2楽章リピート有り。第4楽章496小節のシンバルなし。使用楽譜は1912版がベースですが、この頃の録音の特徴として1906年版の要素がかなり含まれています。フィナーレ最後のホルンの補強はないようです。

ぴしっと引き締まったオケの響きの中にウィーン情緒が漂います。
枯れたオケの響きに鄙びた田園風の景色を彷彿させますが、これはLP初期のVOX特有の録音の取り方にも関係がありそうです。

ひとつの小節の中のクレシェンド、デクレシェンドでの各楽器のバランスが良い加減で見事に音になっているものの、なんとなくオケが醒めているような優等生的な演奏です。

マーラーがさほど演奏されていない時期の録音なだけに、練習の際にオケに苛酷な要求を強いたのかもしれませんが、かえってオケの自発性がスポイルされてしまって裏目に出ているようです。

第一楽章の主部のリピート記号の直前のヴァイオリンのグリサンドには、ちょっとしたウィーン風のしゃれっ気が感じられます。
279小節のホルンのゲシュトップなし(1906版)

後半の335小節からは、コントラバスとチェロのうねるような動きの部分でテンポを落し、タメ気味に次第に加速して大きな盛り上がりを構築していきます。
興奮の頂点での、1912年版にない416,417小節のホルンの強調は大きな効果を上げていました。最後の6小節間の絶妙のテンポ変化は名人芸の域。


第二楽章は遅いテンポでボヘミアの長閑な鄙の趣。
91小節のトランペットと121小節のホルン有りは1906年版、その一方155小節のティパニは入らず、トリオは基本的に1912型。
1906年版の特徴である187−190小節でホルンがファゴットに重なります。

第三楽章では、コントラバスの柔らかでひきずるようなバスが特徴的。18小節のオーボエの優しい響きでスタッカートも柔らかめ。

この第三楽章の最初の部分では、次第に加わる各楽器のバランス感覚と存在感が際立っていて、三々五々集まった人々が一つの方向に集まって行進していく様子が目に浮かぶようです。
63小節のティンパニの入りの前の、ヴァイオリンとの微妙な間も秀逸。

72−75の間のティンパニに同調するコントラバスパートが欠落しているのは、編集ミスでしょうか。その結果、74−75小節のティンパニが休みの部分で大きなリズムの穴が開いていました。
146,148小節のトランペットのアクセントの強調は、他に例がないので新鮮に響きます。

第四楽章は一歩一歩踏みしめるように進行。157小節のフェルマータは長め。
テンポの伸縮が大きく、じわりじわりと曲の後半に向かって興奮を盛り上げていきます。
291小節のホルンなしは1906年版。
最初の嵐が過ぎ去りハープが入る436小節での編集の跡は目立ちます。

後半に入り、600小節ヴィオラを皮切りにスピード感を増していきます。
630小節のPesanteでぐーっと大きくタメを作り壮麗なコーダへ突入。

第三楽章は非常に良い出来ですが、他の楽章には音楽に勢いが感じられず、ホーレンシュタインのマーラーとしては特長に欠ける演奏でした。

今回聴いたのはVOXから出ているVOXBOXの2枚組CDです。ブルックナーの交響曲第9番とのカップリング。
残響少なめのVOX独特の固い音ですが、モノラル期の良さが出た密度の高い響きでした。

(2014.08.20)